早嶋です。
過去から成功を収め、グローバル展開していた企業は、新興国への単なる輸出から、新興国市場向けに新たにイノベーションを起こすという発想の切り替えに苦しんでいます。前回から書いている5つのギャップを考えると、富裕国で成功した商品の廉価版を輸出して販売したところで、新興国の富裕層には響いても、そもそものマスの大衆には反応されないでしょう。企業が次のグローバル化を図るためには、まずはこのマインドをリセットすることが大切です。
例えば、重要な市場は富裕国だけだ。貧困国はあまりにも貧しいのでビジネスにならない。このような思考(レベル1の思想)であれば、そもそも新興国市場や貧困国市場に興味を持たないでしょう。従って、このようなマインドのままのグローバル企業は少ないです。
例えば、貧困国の経済ピラミッドの一部、頂点を狙っていこう。そうすると自社製品の販売機会が必ずある。そして、徐々にその国が豊かになれば、その富裕層が広がり、徐々に自社製品がボトムの層にも浸透するだろう。このような発想(レベル2の思想)はどうでしょうか?この発想の大前提に、貧困国は富裕国が発展してきた通りの道を通るはずだがあります。初めのギャップは大きいけれども徐々にギャップが埋まっていくでしょうと。そして、その変化は時間に任せようという発想です。
しかし、考えてみて下さい。例えば、今のインドと米国を比較してみます。一人あたりのGDPを見ると、今のインドの立ち位置は19世紀の米国に匹敵します。当時のニューヨークは馬や馬車で通りが混雑していました。しかし、今のインドはオートバイがひしめいています。極端な事例かも知れませんが貧困国が通る筋道は過去に富裕国が遠たそれとは違う場合が多いのです。貧困国といっても、一気に最新のテクノロジーや最新のインフラ設備を受けて経済が発展していきます。新興国に自社製品が受け入れられないのではなく、その商品自体が新興国に対応していないのです。そう、富裕国のベスト・プラクティスは貧困国で上手くいかない場合のほうが多いと認識して始めて現地に合わせたイノベーションが必要だと思うのです。
次の考えはどうでしょう。新興国市場の顧客は、富裕国の顧客とは異なるニーズを持っている。従って企業としては既存の商品をカスタマイズして現地に適合しなければならない(レエbル3の思想)。一見、新興国の市場を理解しているようにも見えますが、実際はまだまだです。このような考え方は多くの大企業のリーダーに観察されるかも知れません。企業幹部が海外で活躍した地域は北米が中心。現味はグローバル・ビジネスの幹部として組織をまとめていますが、新興国や貧困国で滞在した経験は無く、自分の過去の経験、北米での経験を照らしあわせて考えています。その場合のイノベーションは自社での素晴らし商品をローカルの商品に適宜カスタマイズするだけで十分に現地の市場に受け入れられたからです。つまり、グローカリゼーションだったのです。
グローカリゼーションはグローバルな規模とローカルの両方の中間的な発想の商品です。グローバル化するにあたりコストが削減でき、現地で市場シェアの最大化を図るためにローカル向けにカスタマイズする。これによって最適のトレードオフをとっていきました。
しかし、今の貧困国や途上国での戦略は上記のグローカリゼーションでは上手く対応できません。その前提に富裕国と貧困国を同等に扱っているということがあるからです。グローカリゼーションはドイツとフランスなど国境を超えたマイナーチェンジには対応出来ましたが、富裕国と貧困国という国のギャップを乗り越えるものではありません。結果論でも分かるように富裕国向けに開発した商品を貧困国に持ち込む、或いはマイナーチェンジして微調整する。コスト削減のために幾つかの機能を省略する程度ではブレイクする商品は産まれていません。1,000円使えるヒト一人を相手にする商売と100円使える10人を相手にする商売は根本から発想が異なるからです。
ここでグローカリゼーション=NGと言うわけではありません。例えばノキアが新興国市場にフォーカスしている中、Googleやアップルにスマートフォン市場で大きな機会を譲ることになりました。富裕国でのイノベーションも、当たり前ですがビジネスチャンスは多大です。グローカリゼーションは、世界の売り上げシェアの多くを占め、今後の成長も見込めます。また、貧困国の一部の顧客は富裕国の顧客と同様かそれ以上の暮らしをしているため、グローカリゼーションのニーズを満たすこともあるでしょう。しかしその人数は限られています。大きな成長は通常はマス、大衆にあります。そこに受け入れられるためにはリバースイノベーションの選択も重要になるということです。つまり、グローバル企業はグローカリゼーションのみではなく、リバースイノベーションも取り入れた双方の舵取りを意識する必要があるのです。
そこで富裕国の顧客と途上国の顧客は全く異なるニーズを持っている。従って開発はゼロベースで途上国に出向いてから行うべきだ。このような発想(レベル4の発想)はどうでしょう。富裕国で培ってきたイノベーションを一度白紙に戻してゼロから開発を進めるという考え方です。実際、途上国や貧困国のターゲットは誰か?その顧客はどのような価値を求めているか?その価値を届けるためのバリューチェーンはどのように創出するか?と3つの質問を考えてみればこれまでの延長線上での発想に不都合が生じることは明らかです。
結局、富裕国で成功して、貧困国に行く場合、多くの企業の発想がプロダクト・アウトになっているということなのです。戦略スタッフが本社にいるのではなく、現地で現地の生の声をもっとあつめ、自社がそこでビジネスをするための成功要因を分析する必要があります。その地域特有のニーズを拾って、最適なソリューションを提案する。当たり前ですがマーケットバックのやり方が必要なのです。
ということで考察を進めて行くとグローバル企業は実はローカルでモノゴトを考えているのですが、実際の問題はグローバルにあるということの再認識が重要(レベル5の発想)ということです。10年から30年のビジネススパンで考えれば、どこで売上やシェアを伸ばすことがグローバルで勝ち残ることに成るのか?それは明らかです。そのために資源の分配を今のままローカルに置くのではなく、市場が発展する地域に分配していくことを考える。これまでのマインドで行なって入れば、そこには不都合が生じる。そのために、多くのグローバル企業、特に幹部の脳みそを白紙の状態に戻さなければならないのです。