イノベーターは、商品の良さ技術の確信性が理解出来れば、自ら実験しながら進んで商品を購入します。そして世の中のオピニオンリーダーでるアーリーアダプターも、ある程度の不具合があっても、革新的な商品は進んで購入します。いわゆるイノベーターの普及理論です。
商品が市場に受け入れられるには、このイノベーターとアーリーアダプターの合計である約16%の普及率が鍵になります。このラインを超えると一気に普及していきます。
頭皮を洗うことで健康な髪を育てる。独自のコンセプトがうけ、成長中のシャンプー、スカルプD。実に商品点数が6000万とも7000万とも言われるネット通販サイトの楽天で2010年の年間総合ランキング、男性向けシャンプーとコンディショナーで首位を獲得した話題の商品です。
男性用のシャンプーとしては、花王サクセスの販売本数よりも一桁小さい年間18万本程度。しかし、サクセスが実勢価格で600円程度に対して、スカルプDは4800円(350ml)と10倍以上の高額シャンプー。これを考えるとスカルプDは恐るべしです。
普及理論を正だとすると、16%の壁を超えるキーはオピニオンリーダーへの普及です。イノベーターに続くオピニオンリーダーは、単なる商品の目新しさに加え、これまでに無い新しい価値にも注目します。世の中に発売されて間もない商品ほど、提供する企業の思惑とは異なります。そこに、オピニオンリーダーが商品の利用を通じて、その用途や機能的なベネフィットなどの実利を他の消費者に伝える役割を担うのです。
これまで、同様の商品の流通先としてはドラックストアやスーパーが一般的でした。そして、いち早く導入を広めるために小売店を拡大するのが鍵でした。しかし、必ずしも商品がオピニオンリーダーに受け入れられるとは限らないので市場に普及させることが出来ずに、沢山の在庫を抱えるリスクもあります。スカルプDはその定石にメスを入れます。ネット販売に集中したのです。
この戦略は実に合理的です。2日あれば北海道から沖縄まで確実に流通出来る時代。あえて小売りに頼らなくても、オピニオンリーダーにリーチすることが可能なのです。イノベーターやオピニオンリーダーは、欲しい商品があったら自ら購入する意志も強いため、ネットであれ小売店であれ関係無しです。
スカルプDは2005年3月から楽天で販売開始、ほどなく口コミで売上が急増します。プロモーションもはじめはネットに集中して行い、普及が見えて来た段階で徐々にアナログなテレビや新聞に広告を展開しました。このながれも通常とは真逆。これまではアナログからデジタルに普及していましたが、イノベーターとアーリーアダプターの特性を考えると、ネットでの販売で試したあとに実際の小売店に展開していく方がリスクが少なくなります。今の時代にフィットしていますね。
2008年4月からは雨上がり決死隊の宮迫氏を中心とする吉本芸人を起用したキャンペーンをネット上で開始。そして、ネットを使わない50代以上の男性にもリーチするために2009年8月からテレビCMを投入、2011年から新聞広告を開始。徐々に小売店に展開しています。
世の中に普及させて行くための流通戦略としてのネットの活用。スカルプDのケースは非常に示唆に富みますね。ジェフリームーアが提唱するキャズムに対しての打ち手としても、オピニオンリーダーに普及させるまではネットを活用してコストを抑えながらも実利の声をオピニオンリーダーから引き出す。そして普及の判断を行った後は、キャズムを乗り越える策を考えながらも、アナログの方法で販売拡大を一気に狙う。
現在、スカルプDは、男性から女性市場への普及を行っています。こちらの展開も見事ですね。