早嶋です。
昨日は、ヒューリスティックのうち利用可能性ヒューリスティックが引き起こす後知恵バイアスについて書きました。
ヒューリスティックには、利用可能性ヒューリスティック、代表性ヒューリスティック(ヒューリスティックで書いた悪い人の例が代表性ヒューリスティックの例)とアンカリングと調整によるヒューリスティックの3つがあるといわれます。
不確実な事柄について予測をするとき、初めにある値(アンカー)を設定し、その後で調整を行いながら最終的に予測を確定していくヒューリスティックがアンカリングと調整です。このヒューリスティックは、調整の段階で最終的な予測が最初に設定されたアンカーに引きずられるバイアスが生じることがあります。
このバイアスはアンカリング効果と称されます。アンカリング効果を意図的に使う応用例に交渉のテクニックがあります。交渉のときに、相手に対して、意図的にアンカリングを行い(相手に意図的に一定の数値などを提示して、それを基準に検討してもらうようにすること)相手の意識をアンカーに集中させ、提案内容を引っ込めてもらったり修正してもらったりすることです。
これに関して、「交渉において提案を先にした方が有利だ!」とする主張があります。先に提案した方が相手をアンカリングしやすい!という主張です。しかし、必ずしもそうではないでしょう。先にオファーを出したとしても、相手が無視して自分の提案を押し通すこともあるからです。逆に、相手からの逆提案によって、自分がアンカリングに引っかかってしまう場合も考えられます。
交渉においては、先にオファーを出すか否かよりも、どれだけ自身を持って臨むか野方が重要なのです。アンカリングの本質を考えると、先に出すか後に出すかは小手先のことで大きな意味を成さないのです。
日常生活にもアンカリングは潜んでいます。その代表例が価格です。商品を買う場合、おおいに価値に基づく正しい判定をしているのは稀で、たいてい定価や正札の情報から妥当とする価格を判断しています。
希望小売価格が1万円で、販売価格が8千円という表示があったとしたら、希望小売価格がアンカーとなって、販売価格が安いと判断されるのです。
他には、株式市場にもアンカリングが影響をもたらしているといわれます。ファイナンス理論では、株価は将来支払われる配当の正味現在価値であったり、ファンダメンタルズによって決定されます。しかし、投資家は適正な株価水準を知っているわけでもなく、合理的に知ることは難しいです。
そこで株価の売買に関しては、何かのアンカーを頼りにヒューリスティックな判断を行っていると考えられます。この場合、記憶に新しい株価や東証平均、日経平均といった指数で、これらを基準に株価の判定を行っているのです。