早嶋です。
「ソリューションビジネスの提案力を身につけさせたい。」「フロントエンジニアの育成をしたい。」「コンサルが出来るエンジニアを育てたい。」というような相談が、ここ1、2年増えています。いずれも大手電機メーカーからの相談依頼です。背景は昔から言われているように、物売りの発想では仕事を獲得することができないので、顧客視点で提案を出来るエンジニアを育てたいということからです。
提案をするということは、顧客の頭の中に、何かしらの問題があり、それをどのように解決するかという課題が存在していなければ提案できません。それを提案する側が把握して、顧客が自前で行うよりも、提案する側の何かしらの資源(ノウハウ、商品、アイデア、ネットワーク等)で解決できることを示さなければなりません。そして、当然、顧客は自前で行うよりも全体的なメリットがあることが求められます。
現在、何故、上記のことができにくくなったかと言えば、提案を求める顧客企業自体が何をしたいのかが見えないという理由です。従って、目標や到達地点がわからないため、現状とのギャップ、つまり問題そのものが定義できにくいのです。ここに従来の発想を持った企業は、自分たちが持つ資源をちら見させ、さも顧客の課題が解決出来る素振りをしているのです。当然、問題の定義自体が無いので、その提案が良いのか、否かの判断が顧客にも理解されないという状況です。
2000年頃からIT業界で言われるソリューションビジネスとは、提案される側、つまり顧客自体が、何を解決したいのかが不明確な状態です。従って、提案する側もどのように解決すると良いのかが不明確な状態です。提案する側、される側、どちらも何をしたいのかがわからない状態からスタートしているのです。
従って、先ずは、提案される側が何をしたいのかを明確に言語化する必要があります。つまり提案の前に、問題を定義する必要があるのです。問題とは、在りたい姿と現状のギャップですので、少なくとも提案する企業は、顧客の現状を把握しておかなければ、そもそもNGです。現状とは、過去から現在の取り組み、現在から将来に発生するであろう課題感を把握することです。つまりは、その企業の戦略を理解して、その戦略を実現するための事業部の取り組みや、対象顧客が属している部や課の取り組みを把握する必要があります。
更に、顧客が法人ビジネスであれば、法人がどのようなビジネスモデルで成り立っており、エンドユーザーはどのようなことを価値として期待しているのかを知っておくことも大切です。それでもまだ問題は定義されません。現状の理解しかないからギャップを見いだせないのです。
提案する側は、該当顧客の戦略をベースに、複数の組織にアプローチして、実際にどのような状態になれば良いのかということを質問を行いながらヒアリング、整理していきます。通常、組織は上位になればなるほど大枠で長い時間軸を考えています。そして、下位になればその大枠が細分化され、時間軸も短くなります。もし、提案する側が、たまたま目の前の顧客が言っている内容を鵜呑みにして問題を定義した場合、大抵の場合ミスリードします。その担当者自体が会社の戦略を把握していない可能性があるからです。従って、その部門の上位の階層、その部門と連携して仕事を進めている部門にもヒアリングを行いながら、戦略を満たすためにはどうしなければならないのかの方向性を共有していくのです。
するとようやく、顧客が何をしなければならないのかがみえてきます。つまり、在りたい姿を徐々に見せていくことで徐々に顧客も問題を定義するための在りたい姿がみえてくるのです。この過程で、顧客の現状分析や業界の分析、その業界を脅かすマクロ環境や新たなビジネスモデルの脅威、あらたなテクノロジーなどの把握をしながら、どんなギャップがあるのかを顧客と共に言語化しながら共有するのです。
こうして、提案する側、される側、どちらも何をしたいのかがわからない状態から、顧客が何をしたいかが明確な状態になっていきます。ここで提案と早まっては行けません。まだ、その方向性やそのギャップを埋めるための課題が特定できていないからです。提案する側は、このギャップを埋めるためにすべきことは何か?自社で全て行うのか?顧客のリソースを活用するのか?外部のパートナーや技術の活用が必要なのか?を整理して、最終的に自社が何をすべきかを明らかにしていきます。
つまり、顧客が行いたいことが明確になり、自社がどのような解決策を提供するとよいのかが明確になるのです。この状態になって初めて提案活動が行えるということです。
となると、単に提案のテクニックを身につけるというよりも、ビジネスの基本と問題発見と課題解決の基本的な要素を理解しなければ、上記のような顧客の悩みに対して提案できる人材は育たないということなのです。