新規事業の旅171 増加する組織再編

2025年4月21日 月曜日

早嶋です。

最近、非上場を含めた中堅・大企業の中で、グループ会社を再編・統合する動きが目立つようになってきた。これは一部の業界に限った現象ではなく、製造業、建設業、物流業、食品業など、多様な業種で進んでいるように感じる。実際に、私の関与する案件の中でも、10年前にはほとんど話題に上がらなかった組織統合や会社再編が、今では年に複数件あるのが当たり前になってきた。

その背景には、いくつかの大きな構造的な理由があると思う。まず、人材不足だ。特に、管理部門やバックオフィス業務に従事する人材の確保が難しくなっている。人が足りないのであれば、各子会社で経理、人事、総務を個別に持つ意味が薄れてくる。むしろ一元管理し、スリムに運営する方が合理的なのだ。

次に、DX(デジタルトランスフォーメーション)対応の圧力がある。複数の子会社がバラバラのシステムを使っていると、IT投資は無駄が多く、データも統一できない。グループ会社を統合し、同一のERPやクラウドツールを使えば、コストも下がり、業務スピードも上がる。特に、最近のERPはグループ連結でのKPI管理やモニタリングが容易になってきているので、経営としての意思決定が加速するのだ。

資本効率という観点も大きい。100%子会社であれば、再編は比較的スムーズにいく。しかし、少数株主がいる場合には、交渉や価格評価が必要になる。資本の集中や、遊休資産の見直しを行うためには、子会社を統合してガバナンスを強化し、資本政策を見直すという流れが不可避なのだと思う。

また、最近はM&AやIPOを視野に入れている企業が増えている。グループ会社がバラバラのままでは、評価が分散してしまうし、投資家からの印象も良くない。事前に事業再編を済ませておくことで、バリュエーションが明確になり、外部資本を導入しやすくなるのだ。

一方で、組織再編は簡単ではない。100%子会社であれば、法務手続きと税務整理を進めれば良いが、マイノリティ株主がいる場合はそうはいかない。特に未上場会社では、株式価値をどう評価するかが大きな論点になる。DCF法、類似会社法、簿価純資産法などが使われるが、結局は「いくらであれば納得するのか」という実務交渉が中心になる。

実際の現場では、まず経営陣や親会社が第三者評価を取得し、交渉のたたき台をつくる。その後、少数株主に対して説明し、場合によっては買い取りオプションやExitボーナスなどを設けることで納得を引き出す。フェアネス・オピニオン(第三者の公正意見書)を取得することも増えている。

さらに、統合後のPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)も重要だ。人事制度、給与体系、評価制度、システム、ブランド統合が終わってからが本番である。お飾りの統合ではなく、実際に効率化やシナジーが出るように設計していなければ、従業員の不満や退職を招くだけで、逆効果になる。

一方で、再編を行う上で実務家として気をつけておきたいのは、株主間契約やExit条項の設計だ。スタートアップ投資などで使われるタグアロング(マイノリティが、親会社と同じ条件で売却に参加できる)、ドラッグアロング(親会社が合併・売却を決めた際、マイノリティも強制的に同条件で売却させることができる)条項や、プット・コール(将来の一定条件のもとで株式を売る権利(プット)または買う権利(コール)を定める契約条項)オプションをあらかじめ設定しておくことで、再編時の対立を防ぐことができる。

特に、外部ファンドやベンチャーキャピタルが株主になっている場合、合併や株式交換による価値変動に対する期待値とリスクのコントロールは最も重要な交渉項目になる。そのためには、段階的に持分を引き上げておく戦略や、持株会社化して株式の希薄化を避けるなど、複数の再編スキームを組み合わせて検討する必要がある。

つまり、グループ会社の統合は、単なる「コスト削減」の話ではなく、人材の最適化、IT資産の効率運用、資本構造の見直し、そしてガバナンス強化という、極めて戦略的な取り組みなのだと思う。目先の合理化だけではなく、数年先を見据えて、統合後の価値創出まで含めたストーリーを描けるかどうか。これが再編の成否を分けるのだと私は考えている。



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