新規事業の旅142 グリーンファンド

2024年10月9日 水曜日

早嶋です。(3900字)

グリーンボンドファンドやグリーンファンドは、環境配慮型の事業やプロジェクトに投資することを目的としたファンドの一種だ。具体的には、再生可能エネルギーやクリーンテクノロジー、省エネプロジェクトなど、環境に対するポジティブな影響を期待する取り組みに資金を提供する。

グリーンボンドファンドは、グリーンボンド(環境関連プロジェクトのために発行される債券)に投資するファンドだ。発行元は政府、企業、金融機関などで、集めた資金は太陽光発電、風力発電、エネルギー効率向上などの使途だ。投資家は、環境に貢献するプロジェクトを支援しながら、通常の債券のようなリターンを期待できる。

グリーンファンドは、より広義でグリーンボンドだけでなく、再生可能エネルギーやクリーン技術関連の株式やプロジェクトに投資するファンドを含む。ファンドマネージャーが選定した環境配慮型の企業やプロジェクトに資金を振り向け、その利益を投資家に還元する(グリーンファンドが広義のため、以下総称をグリーンファンドとして記述)。

グリーンファンドは、通常のファンドと同様にSPC(特別目的会社)を中心に運営する。例えば、蓄電池プロジェクトなど、大規模でコストが高い場合を想定してみよう。その際、SPCを活用するのだ。SPC(Special Purpose Company)は、特定のプロジェクトに資金を集め、管理するために設立される法人だ。蓄電池プロジェクトに特化したSPCを設立し、グリーンファンドなどを通じて投資家から資金を調達するのだ。

蓄電池は、大きな電池だが再生可能エネルギーを現在の電力インフラにインストールしていく際に、とても需要な役割を果たす。その際に、蓄電池を活用することで利益を発生させることが可能なのだ。再生可能エネルギーの特性上、発電量が気象条件に左右される。太陽がギラギラしている時は発電量が増え、貯める事が無ければ放電しなければならない。一方で、電力需要が逼迫している場合は、すぐに電力を発電するのも限界がある。簡単に沢山発電出来る時は、電力を蓄電池に貯め、電力需要が高まった際に、放電して提供するのだ。

具体的なビジネスモデルをみてみよう。まずは、価格差を利用した利益の獲得だ。電気の価格は需要と供給によって変動する。発電量が多くて需要が少ない時には電気の価格が安くなり、反対に発電量が少なく需要が多い時には価格が上がる。蓄電池はこの価格差を利用して、安価な時に電気を蓄え、高価な時に電力を売ることで利益を得るのだ。近年はこの売買のタイミングや取引そのものをAIを活用することで、最適なタイミングで充放電を行い、取引を効率化できるという理屈だ。AIによる予測とリアルタイムでの最適化を使うことで、電力の取引を自動化し、安定的なリターンを期待できる。エネルギー市場の動向に基づき、最適な取引戦略を実施することが可能になるのだ。

世界中で再生可能エネルギーの導入が進んでいる。各国政府はその普及を支援し、特にグリーンボンドやグリーンファンドを通じた投資は、政策面からも優遇されることが多く、リスクを軽減しやすい環境が整ってきた。また投資家には、環境に貢献する投資を望む者も多い。蓄電池を利用することで、再生可能エネルギーの活用をさらに促進し、エネルギーの効率的な利用に貢献できるため、社会的責任を果たす投資ともなるのだ。

グリーンファンドは、蓄電池の事例でみたように、投資家から見ても魅力的で社会的な意義があるファンドが。もちろんリスクもあるだろう。メリットとデメリット(リスク)を整理してみた。

まずはメリットだ。投資家としてのメリットは、環境貢献と社会貢献だ。グリーンファンドは、環境に優しいプロジェクト(再生可能エネルギー、エネルギー効率の向上、持続可能なインフラなど)に資金を提供するため、投資家は環境保全や社会貢献に関わることがでる。企業のESG(環境・社会・ガバナンス)投資戦略に合致し、投資家もそのチャンスを得得られるのだ。

グリーンボンドは通常、政府や信用力のある企業が発行するため、リスクが低く安定した利回りが期待される。通常の債券と同様に、満期時には元本が返済されるため、リスク回避型の投資家にとっても一般的には魅力的だ。

当然、環境問題に対する関心は今後も高まるだろう。再生可能エネルギーやエネルギー効率向上の需要は増加する。各国政府もこの分野を支援するため、長期的な市場成長が期待される分野だ。つまり、グリーンファンドに投資することで長期的な資産価値の向上が見込めるのだ。

既に多方面に投資を行っている場合、グリーンファンドそのものがリスク分散として活用できる。グリーンファンド事態が、多様なプロジェクトや企業に分散投資することが多く、リスク分散しながら環境に関与することができるのだ。

もちろん、メリットの裏にはデメリットがある。いつの世も、どんな商材においてもリスクはあるのだ。諸々リスクを整理してみよう。

まずは、事業リスクだ。グリーンファンドで資金が投じられるプロジェクトが予定通りに完了しない、または期待される収益を生まないリスクだ。特に、技術的な失敗や規制の変更などにより、プロジェクトの収益性が損なわれる可能性がある。

次に市場リスクだ。債券の場合、市場全体の金利動向に影響を受けるため、金利が上昇するとグリーンボンドの価格は下がり、ファンドのリターンが減少する可能性がある。また、エネルギー市場の変動や政策変更によって再生可能エネルギー分野の利益が不安定になることもリスクファクターだ。

そして規制によるリスクもある。各国の政策や規制の変更により、グリーンプロジェクトへの支援が減少したり、新しい規制が追加されるなどだ。プロジェクトのコストや運営が影響を受けることが予想できる。特に、再生可能エネルギーに対する補助金や税制優遇措置が変更されると、予想された収益が減少する可能性が考えられるのだ。

そして流動性のリスクだ。グリーンボンドの場合、確かに市場は急成長している。しかし、他の債券市場に比べると規模が小さい。そのため、一部のグリーンボンドやファンドは売買が困難になることもある。市場の流動性が低いと、必要な時に売却できないリスクが存在するのだ。なんでもウマい話の裏にはリスクが潜むものだ。諸々を検討して、勝機をみいだせた投資家にとっては魅力的に映るのだ。

最後に、蓄電池の事業にフォーカスしたリスクを洗い出して見よう。それは蓄電池の寿命だ。大規模蓄電池の寿命について、2024年10月現在の情報では、一般的にリチウムイオン電池を使用するケースが中心だ。そして大規模蓄電池の寿命は10年から15年程度とされている。寿命に影響を与える主な要素は、充放電サイクルの回数や深さ、動作温度、電池管理システムの精度などがパラメーターだ。

蓄電池は充放電サイクルの回数が多くなるほど性能が低下する。リチウムイオン電池の場合、一般的に約3,000~5,000回のサイクルを経ても80%程度の容量を維持できるとされているが、それを超えると劣化が進む。高温や極寒での使用は、蓄電池の劣化を加速する。特に高温環境では、内部での化学反応が進むため、蓄電池の寿命が短くなる。蓄電池の冷却システムや適切な運用が必要になる。そして完全に充電したり、完全に放電することを避ける運用(浅い充放電)をすると、電池の寿命が延びるとされている。深放電や過充電を繰り返すと、劣化が加速するため、バッテリーマネジメントシステム(BMS)が重要な役割を果たすのだ。

上記を踏まえて蓄電池を活用した資金回収は、次のような工夫がなされることになるだろう。まずは、計画と充放電のサイクル管理だ。計画通りのサイクル管理と、電池の劣化を抑える運用戦略を導入することで、高価な蓄電池の寿命を延ばし、想定通りの利益を得られるようにする工夫だ。この分野にAIを活用して蓄電池の運用を最適化することが要になる。この管理は、電池の交換のタイミングや通常のメンテナンスがとても大切になる。寿命を迎える前に性能が大幅に低下した場合、蓄電池の交換が必要だ。もちろん冷却システムや設備におけるメンテナンスもポイントだ。ファンドで投資した蓄電池システムの運用そのものが重要なのだ。

資金回収(ペイバック)の効率を高めるには補助金や政策支援の活用がある。政府や地域のエネルギー政策による補助金や税制優遇が得られれば、初期投資やメンテナンスコストを補うことができる。イニシャル、ランニングコスト共に低減できれば、結果としてペイバック期間を短縮できるだろう。蓄電池のインストールはこれからだ。再生エネルギーが地産地消になっても、系統電力に接続されても蓄電池の需要は高まるだろう。事業モデルは安く買って蓄え、高く売るの繰り返しだ。電力市場の価格が想定通りに推移すれば、蓄電池の充放電のタイミングにより得られる収益も安定するが、市場価格の変動によって収益が変わるリスクもあるのだ。

初期投資が大きな事業で公共性が高い場合、投資家を募って事業推進の利害関係者に巻き込む手法がある。蓄電池事業の場合は、電池のコストと寿命がその事業全体の収益に大きな影響を与える。グリーンファンドの活用は良いアイデアだと思う。SPCを構築して蓄電池の選定や設置場所の電力需要者との交渉、全体ソリューションの設計や設置やその後の保守メンテナンス。全体の事業を考えたモノが、利ざやを確実に得ながらも事業を拡大することができるのだ。



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