新規事業の旅74 ストックオプション

2023年9月11日 月曜日

早嶋です。

(ストックオプションとは)
ストックオプションとは、企業の役員や従業員、時には取引先や外部のアドバイザーなどに対して「将来、事前に決めた一定の条件で株式を購入できる権利」を与える仕組みです。

ストックオプションを付与された人は、将来、一定の条件で株式を購入出来る権利を得ているので、企業価値を上げる努力にインセンティブが働きます。企業価値が上がれば株価が上がり、結果的に金銭的なメリットを得ることができるからです。

ストックオプションは成熟した企業よりもベンチャー企業でよく用いられます。その企業の利害関係者が一緒になり企業価値をあげるインセンティブにつながるため、全員の方向性が一致するためです。そして、ベンチャー企業は現時点で潤沢なキャッシュフローがありません。それでも将来の可能性に投じて有能な人材と仕事をするためには資金が必要です。将来のキャッシュフローを期待して企業価値を上げる取組に賛同した仲間は、ストックオプションを得ることで利害が一致し、ベンチャー企業としては金銭的なリスクを創業時に低減することができるのです。

ストックオプションは権利です。もし株価が将来下がり、ストックオプションを行使したとします。その場合、高いお金で安い株を買うことになるので損します。その場合は行使しなければ良いのです。ストックオプションは義務ではないこともポイントです。

未公開企業のベンチャーが発行するストックオプションは、通常は譲渡制限があり譲渡できません。ストックオプションはベンチャー企業から従業員等に無償で付与されます。ベンチャー企業は一般的に資金力が乏しく、人材も揃っていません。しかし成熟した企業や大企業よりも玉虫色に将来が化ける可能性があります。ストックオプションはそれをベンチャー企業の推進力に変える仕組みなのです。

ベンチャー企業も成功の鍵は人です。小さい企業には人材が集まらない。人材がいれば理想のビジネスモデルを構築し潤沢なキャッシュフローを生むことができる。そして企業価値があがる。このパラドックスを常に合わせ待つのがベンチャーです。

大企業の安定ではなく、自分達の努力とコミット具合で将来を変える、社会に変革を起こすことが出来る。そのような将来の可能性を見出す人材を、集める仕組みでストックオプションは魅力的です。一方で、ベンチャーが起動に乗り、一定のキャッシュフローを生み出す仕組みが出来た頃は、自社でキャッシュを稼ぎ信用も確立できているので、良い人材獲得もやりやすくなります。創業期と安定期で異なる人材を集める仕組みとしても活用しやすいのです。

(基本的な仕組み)
ストックオプションは「将来、事前に決めた一定の条件で株式を購入できる権利」です。その1株をいくらで購入できるかの価格を行使価格と言います。たとえば、行使価格を5万円とします。

将来、株価が5万円よりも安い場合は、ストックオプションを行使しても得られる利益はゼロになります。ただし、ストックオプションはタダで受領しているため損しません。ストックオプションは権利で、損する場合は行使しなければ良いのです。

将来、株価が行使価格の5万円よりも高くなれば、その差額が利益です。たとえば、将来株価が20万円になれば15万円が益になり、500万円になれば495万円が益になります。

設立時のベンチャー企業は企業価値も低く、行使価格も低いです。既にベンチャーキャピタル等からファイナンスを受け企業価値がある程度上がっている場合、行使価格は高くなるのが通常です。そのため創業時に近い時期にストックオプションを得ることで、利益を最大化するチャンスが高まります。一方で、将来が不確定なため権利を行使しても利益を得られない可能性もあります。

(クリフとべスティング)
ベンチャー企業がストックオプションを配布する目的は、「良い人材を獲得する」、「将来の成功にかけてしばらくの期間、一緒に頑張ってもらう」など人にかかわる部分が大きいです。そのため「ストックオプションをもらってすぐに行使できる」という設計もテクニックとしては可能ですが、人材確保の目的にはなりません。通常はストックオプションを受け取ってから2年程度は行使することができないように設計します。この行使でいない期間、もしくは行使開始時期のことをシリコンバレーでは壁の意味でクリフと言います。

更に、目的の人をベンチャーに残ってもらい継続的に企業価値を上げてもらいたいことから、クリフ後、すぐに100%行使させません。何年かに分けて行使できるようにします。「2年クリフ。付与から毎年25%行使可能で4年目に100%行使できる」などです。この場合、ストックオプションを付与時から2年後に25%の行使が可能で、100%行使するためには5年必要になります。この仕組みをベスティングと言います。

たとえば、期待のエンジニアや役員がストックオプションを付与してすぐに株に変え、退職されてもベンチャー企業には意味がありません。このためクリフとべスティングで縛りをつけるのです。

(発行計画)
ストックオプションはベンチャー企業にとって、お金が無い時期に有能な人材を外部から調達するための原資として有用なツールで有ることはご理解いただけたと思います。最後に、そのストックオプションをどのように発行するかをみていきます。

結論は、業種や企業規模等でケースバイケースであり、資本政策にも関わってきます。ただし目安として発行されるストックオプションが上場までの累計で、発行株式数の10%以内に収まるように設計するのが無難です。より安全に考えるとしたら累計で5%から7%程度に収まるように計画します。ポイントは1回の発行ではなく、累計での発行です。

これらを鑑みると、ストックオプションの計画は人員計画、資本政策、当然ながら事業計画を合わせて作ることが必要になります。事業計画で上場までにどのような役職の人を何人採用するかの人員計画をつくります。資本政策では、いつ、どのくらいの企業価値を実現して、いくらくらいの資本を必要とするかを計画します。これらを合わせて考え、誰にどの程度のストックオプションを付与できるか、将来の事業価値から、それぞれの人にどの程度の報いを与えることができるかのシミュレーションがポイントなのです。

ストックオプションは「付与のタイミング(入社時期)」「その人の役職や職責」などから一定のルールを作り、それに準じて決定するのが定石です。付与時に全従業員に開示する必要はありません。しかし株式公開する際に有価証券届出書でストックオプションを受け取った全員の名前と住所が開示されます。上場した場合、誰にどのくらいのストックオプションが付与されたか分かるのです。ある程度の納得感は必要だということも理解できると思います。

参考:「起業のファイナンス」磯崎哲也著
参考:「起業のエクイティ・ファイナンス」磯崎哲也著



コメントをどうぞ

CAPTCHA