早嶋です。
Look east policyは1980年代に当時のマハティール首相が日本の近代化の成功に関心を寄せた政策だ。当時、マレー人を中国系やインド系住民よりも優遇する政策が引かれ、マレー人の社会的地位を高めていた。特に公的機関ではマレー人が優先的に採用され、結果、非効率と怠慢な仕事が横行する。また、役人はビジネス世界にも参入しはじめ、マレー人が過度に個人主義や利己主義に走る傾向が強まった。マレーシアは当時、旧宗主国であるイギリスとの関係も様々な問題で緊張関係が続いている背景もあった。
そこに個人の利益より集団の利益を優先する日本の労働倫理をベースに、当時の個人主義や道徳や倫理をもたらした西欧的な価値観を修正すべきとなったのが政策の背景だ。マハティール首相の影響により、マレーシア国内では日本に対しての興味関心が高まる。人材育成の一貫としてマレーシアから日本への留学生も急増。当然、日本もこれを機会と捉え、日本の建設業界のマレーシア進出ラッシュがはじまり、急激な日本企業の進出がすすむ。結果、マレーシア国内では返ってこのことが反発を生むこととなる。
2003年までのマハティール首相の在任期間中は様々なジレンマを抱えながらも、日本からの経済支援や技術移転などは続き、ルックイースト政策は継続された。
2000年頃より、東のシフトは韓国や中国などのエリアに拡大し、やがて日本からシフトする。欧米から東。当時の東は日本を指したが、近年ではアジア、特に中国を指すようになり、西欧諸国はアジア強気の経済に驚異を感じていることは間違いない。
しかし、時間の経過と共に中国にも陰りが見え始めている。人口問題だ。「中国は豊かになる前に高齢化によって衰退が始まる「未豊先老」に直面する」という見解が現実になりつつあるのだ。昨今、中国は自国の成長モデルはオリジナルだと強調しているが、中国経済の軌跡は日本や韓国とに頼った経路をとっている。
経済発展のはじめの一歩を、低コストの労働力を武器に輸出主導で急速な工業化を遂げていることだ。しかし、その勢いを止めているのが急速な人口の高齢化だ。各国の主要エコノミストは中国経済のデフレ、不動産バブル、債務危機は「日本化」と噂されている。同時に日本と同様に中国は急速な人口減少と共に高齢化の加速が経済負担を圧迫しているのだ。
少子高齢化の背景は、経済の進捗によって先に恩恵を受けた大人は高度医療の恩恵で寿命を伸ばす。一方、日本、韓国、中国は偏差値重視の試験制度を教育の要に起き過度な競争社会を構築していく。一定数の若者は、このレールに乗ることができず社会に極度の闇を感じ引きこもる。挫折感、劣等感、忍耐不足などのレッテルを日常的に感じ社会問題となり、結果的に結婚や子供を産む思考をなくす。
中国の経済成長の鈍化と若者の離職率が2割以上もある統計は上記のような因果関係を感じてしまう。AIやロボットが激速で普及する中国は高給な仕事は減少し、熾烈な競争は日本や韓国の比では無い。「寝そべり族」と称される最低の生活を良しとする若者が激増しているのも頷ける。
人口増の政策は移民以外は実現が難しい。仮に今子供が一気に産まれても、経済にインパクトを出すのは20年後だ。そもそも若者のメンタルが子供を養う余裕もなく、将来に希望もないのだから、ここにメスをいれるのは不可能に近い。この政策実現は、日本も韓国も成果を出せていないのを見れば難しさは明らかだ。
中国は、若者の過度な競争を減少させる目的で、学校以外の塾や習い事を営利目的で提供することを禁止した。これによって熾烈な競争社会が緩和されることを考えたのだろうが、甘い。裏目に出たのだ。実は大学を卒業した若者の多くは、この教育環境の事業に就くことで自分たちの収入を確保していた部分もあったのだ。それが天の一声で瞬時になくなり失業になり、将来の働き口が減ってしまった。結果、更に大卒含めた若者の就職環境が厳しくなってしまう。
完全にコントロールができない状態が始まっているのだろう。従来から公表していた年齢層での失業率を一時停止した。中国の舵取りも方針が変わった。経済成長から国家安全保障にシフトしているのだ。その手法も政治統制を重視する考えにみえる。同じ東のエリアでも日本と韓国は民主主義国で中国は共産党による一党独裁体制だ。過去中国では、若者が中心となり社会を動かす学生運動が起きている。1919年と1989年だ。当然政府は弾圧した。香港でも2019年から20年にかけて学生が中心となる民主化デモが起きたが中国は封じ込めた。しかし、ゼロコロナ政策は、若者が起こした抗議行動によって、存在が消された。
同じアジア圏内でも、中国は問題のはけ口が無い。韓国は大統領が度々変わり退任すると同時に懲役刑になることで民主のエネルギーを消している。日本はバブル崩壊後の1989年以降、首相が10人以上も入れ替わり、なんだかんだ言って最悪ではない。一方中国は完全なる独裁体制。ひずみは臨界点を既に超えている。いつエネルギーが放出されてもおかしくない。急激な経済低迷、急速な少子化、若者が就職できない現状、高齢化の影響、そして不動産問題。
新規事業を行うとき、中国の動向は重用なマクロ環境だ。不確実なリスクだが、与えるインパクトはでかい。爆発した際のシナリオ、継続のシナリオの2本は最低議論し、オプションとして捉えた戦略を描くことが寛容だ。
参照:フィナンシャル・タイムズ 「中国高齢化、日韓より深刻」 ギデオン・ラックマン
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