早嶋です。
新規事業を促進する際の予算の考えとして、社長の財布、事業部の財布、VCの財布に分ける取組がある。どうだろうか。
新規事業はすべての企業に対して大きな課題だ。既存事業が収益を上げ、育てる事業、維持する事業、縮小する事業、整理する事業など、収益の配分と将来のポートフォリオを考え、その組み合わせを決めるのが経営者の仕事だ。ローマ帝国しかり、組織は永続しないから新規事業の検討と取組は常に必須なのだ。
新規を実現するための手段は、自社で行うゼロイチ(0⇒1)と資本を取り入れて行うM&Aがある。その間に、業務提携や資本業務提携があり、この3つを並行的に進めるのが理想だと思う。その際の投資の意思決定についてだが、トップダウン、事業部から議論して取締役会で承認、そしてVCや金融機関やM&Aブティックなど社外からの提案の3つがある。
すべてを自前で行う場合、つまりゼロイチを主体に行う企業は、結果的に時間ばかり経過して成果が出にくい。M&Aに対しても、自分たちから積極的に発掘してアプローチする際も、限られたネットワークの中での行動に限られる。業務提携やマイノリティ出資についても同様で、たまたま知っているネットワーク内での出会いが多く、劇的に自社の事業を補う企業、成長を促す企業との出会いは稀なのだ。業界や進出する特定のエリアについて情報を得る目的でVCにLP出資する場合もあるだろう。しかし、はじめから複数社のLPがいれば、GPの意思決定は事業リターンよりも財務リターンを優先することになる。複数のLPに向けての合理的な出資先の選定が極めてややこしくなるからだ。
これらを加味した取組は自社独自のVC、つまりCVCを立ち上げることだ。そしてそこで運用する額をVCの財布として扱うのだ。当然、自分たちから動く場合は、従来通り社長の財布と事業部の財布を使う。トップダウンで、持ち込み案件をベースに突然にM&Aや出資を決めたい場合は社長の財布の予算内やルールで行う。事業計画の中で予算を確保して行う場合は事業部の予算で事業部の財布として資金を配分する。こうすることで外部のネットワークと自社の取組を分散して新規に対しての取組ができるのだ。
CVCを通じたアプローチは、投資の意思決定や業務提携をする前から複数のベンチャーの社長に面談して、自社とのシナジーや不足する領域を双方で埋め合いながら取り組むアイデアをぶつけていく。このような議論の中で互いの化学反応を考える。そしえその中から納得したベンチャーにマイノリティ出資を行い、業務資本提携を結び新規事業を生み出していくのだ。金融機関やM&Aブティックからの持ち込み案件を検討するのも良いが、短時間で複数の買い手をチラつかせる案件は、常に最速で意思決定をする必要がある。もちろんDDなども基本合意を結んだ後に本格的に取り組むが、そもそもの時間が短いため思うように対象会社を理解することは難しいのだ。
対して、CVCのアプローチをした後、マイノリティ出資して一緒に取り組むベンチャーは実務を通じてその企業のDDが可能になる。しかも100%の株式の取得ではなく、ベンチャー企業が必要な1年分程度の運転資金を出資する代わりに数%(ステージにもよる)の株式を取得する。そして人やノウハウを交換しながら互いの実力を確認するのだ。この取組を続けて成果が出始めた場合、それ以上資本割合を増やす必要はない。既に事業リターンを得られているからだ。仮に積極的に資本比率を高めたければ、互いの関係構築はできていて、対象企業の特徴も把握できている。そのため腹わった交渉ができやすくなるのだ。
ゼロイチは事業部の財布と意思決定を中心に行う。
提携や業務提携は理想はCVCを作ってVCの財布と意思決定を中心に行う。
社長やトップの判断で迅速に動く場合は社長の財布を中心に行う。
どうだろう、結構しっくりくると思うのだが。
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