早嶋です。
ハードを主体としたメーカーが力を弱めている。アナログが主流だった頃、様々な部品を多方面から集め調整し組立た。毎回、ゼロベースの取引より同じ組織や系列で動くことで効率的に作り上げた。自らをメーカーと称し、まさに製造に専念した。メーカーの特徴は上流工程の研究開発製に自社の経営資源を投入。下流工程の物流や販売や顧客フォローはグループ企業や協力会社に任せた。性能が良ければ誰が売っても同じという発想があったのかもしれない。
デジタルの到来で一変することになる。ハードをソフトで制御する。アプリなどシステムを活用したソリューションが登場したのだ。アナログに対抗しデジタルの世界がやってきた。デジタルの特徴は、決め事(プロトコル)を作れば、そのとおりに動くことだ。バグなどの初期エラーはあるものの、それらが精査した後は、違う人や組織が作ったソフト同士でも決め事(API)を利用して想定する動きを再現することができる。
デジタルの特徴は、コピペが出来て、ネットワークで伝送できる。そのため地理的に離れたところでソフトを作ってもネットワークの速度に準じてほぼ瞬時にコピペされ、瞬時に結合できる。ハードを主体にするメーカーと違い設備投資の規模や保守メンテナンスの考え、そして物流などの発想が根本から異なった。
小さなソフト会社であれば、クラウドを活用して、規模に応じて変動費でサーバーを増強することも可能だ。自社が得意なソフトに専念し、他の部分はプラットフォーム等を活用する。大企業と同等のサービスを変動費で活用できるのだ。そしてそのソフトがヒットすると、顧客の獲得が物理的にはグローバルで可能だ。iOSやアンドロイドの上で動けば、一定のローカライゼーションは必要とするものの、グローバルに供給することは可能だ。一定の広告宣伝費を燃やして終わりという企業も多いが、そこは二番煎じの商材を投資マネー欲しさに燃やしているだけのようにも見える。
新規でコトを起こす際、商品を作ること、顧客を作ること、お金を調達すること、組織を作ること、のいわゆる経営資源のヒト、モノ、カネに苦労する。ソフト主体の企業はメーカーと異なり1つのソフトが出来たら、その後の大量生産に対してはコピペができる。そのため、商品を作る段階から、顧客づくりを同時に始めやす。一方でメーカーは、出来たプロトタイプを大量生産する場合、更に追加投資が必要だ。はじめは商品と顧客づくりを同時に検討するが商品化の投資で手一杯になり顧客づくりを後回しにしてしまう。仮に大量生産の仕組みが出来たとしても、販売する顧客がいないため、仲間を外部から調達する結果になっていたのだ。顧客とのつながりもなく、販売を外部に委託するため、無駄なコストをかけなければなく販売価格の割には利益が残りにくい体制を作り上げてしまった。
しかし、中にはキーエンスのような企業もいる。商品作りの肝である研究や開発は自分たちで行う。プロトタイプの作成も自分たちで行う。しかし、製造する部分は協力会社に委託してファブレスのメーカーになったのだ。モノづくりの原点は顧客に寄り添うことを理解しているのだ。
例えば製造工場などで使用されるPLC(Programmable Logic Controller)、主に工場の装置などを制御するコントローラーもそうだ。顧客に寄り添うキーエンスは、PLC本体の開発にも一定の資源を費やしたが、それよりもハード(PLC)と現場での実際の使い勝手を向上させるアプリケーションの改善に注目した。工場が独自に作っているラダー(PLCの用語でいうソフト)の構成を整理しながら、より現場が使い勝手が上がるようにキーエンスが改善する。ある程度標準化が見込めたら、それらをパッケージ化して業界毎や製造装置毎に整理しPLCのサービスとして提供した。
製造現場はPLCが欲しいのではなく、PLCを使って製造装置を制御し、完成品である商品をトラブルなく作りたいのだ。まさにレビットのドリルの穴を昔から実行しているのだ。では競合の三菱やオムロン含め、他のメーカーはどうだろう。上述のように、商品はPLCなのでひたすらPLCを作ることに専念し、売った後はほぼかまっていないという時代が続いた。現場はマニアのようにハードを買って満足することはない。その効用を期待しているのだ。徐々に現場の問題解決に力を入れるキーエンスに軍配があがりシェアを取られていくわけだ。
当然にメーカーは現場に寄り添う努力をはじめる。が、商品を販売した後の組織はグループ会社か協力会社か委託会社で、エリアでもバラバラに管理されている。なかば丸投げ状態が続いていたので、今更、メーカーが寄り添うことを決めても、下流工程の利権を紐解いて顧客マターの仕組みに作り変えることができないでいる。そこでお家芸の机上でアプリケーションを作りはじめることに集中した。当然、現場のコトを知らないアプリケーションの評判はよろしく無い。
今後新規でコトをはじめる際は、商品づくりと顧客づくりは同時に行うことを意識しよう。できれば自分たちで主導権を握る覚悟で望むべきだ。もし商品づくりが上手くいかなければ、顧客づくりは手放してはいけない。同じカテゴリ、同じペインを持つ顧客、特定のエリアにフォーカスした顧客を強い関係性で直接DB化し、直接コミュニケーションが取れる仕組みがあれば、事業を拡張する可能性が一気に広がるし、そこに投資マネーが集まる可能性は十分にあるからだ。
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり