早嶋です。
通常、ナショナルブランド(NB)と言えば、製造者(メーカー)が製品やサービスを開発して、その対象にブランドを付けた商品を指します。商品の研究、企画開発、製造までをメーカーが責任を持ち、販売以下の下流工程は自社もしくは関連会社やパートナーと一緒に市場に流通する商品が多いです。NBは全国の小売店で販売されるため、メーカーはこぞってその知名度を取るために広告宣伝活動に一定のコストをかけて認知と普及を目指しています。
NBの対局に相当するのがプライベートPBです。メーカーが商品を開発するのに対して小売業者や卸売業者が主体となって開発するブランドえす。日本では、セブンイレブンやダイエーのセービングなどが注目され、西友のPBであった無印良品はそれ自体がNBに昇華しています。
ここで、商品のサプライチェーンやバリューチェーンを見てみましょう。上流から、原材料、原材料の調達、製造、販売、卸、流通、販売、フォローと続きます。サプライチェーンが企業間で複雑に絡む場合は、各々のバリューチェーンに研究や開発や企画などの上流工程と広告宣伝やマーケティング、販売、アフターメンテナンスやフォローなどが入り込みます。
IT化が普及し始める前、およそ国内や世界的にスマフォが登場する2007年前までは、メーカーは直接顧客とやり取りすることが極めて難しい時代でした。出来たとしても、顧客の管理や1回のコミュニケーションコストが非常に高かったのです。そのためメーカーは研究開発と製造にフォーカスして商品をつくることに専念します。そのためNBの概念が普及して、その商品を地域に特化した小売や卸が仕入れエンドユーザーに届ける役割を担っていたのです。
しかし流通機能が徐々に強化され、小売や卸の機能が地域を超えて、国内、あるいは一定のエリアで規模を拡大する企業が現れます。卸や小売の強みは、直接的にエンドユーザーとつながっており、毎日の決済を握っていることにありました。そこでITが普及して、顧客の管理やコミュニケーション、分析がより簡単に、より安価になり始めるとNBの微妙な不具合や改善が気になり始めました。そこでPBが生まれたのです。
当初は、小売は他の小売店との競争優位を価格で考えました。多くの小売店は立地を先に押さえたら、後はNBを仕入れて販売するだけの単純なビジネスモデルです。そのためNBと直接交渉する規模を手に入れた小売はその分安く商品を提供することができます。一方で、間に卸を入れて規模が小さい店舗は安く売ることが出来ないので、地域に根ざしたサービスや従業員の細かいコミュニケーションやケアで店舗を差別化していきました。しかしどちらにしても売る用品がNBで同じなので、小売や卸は徐々に自分たちの顧客の動向を分析しながら、こNBのこの部分を改造改変すると良いのにな?的な発想が生まれ、メーカーに直接注文して、店舗や企業オリジナルの商品を造ってもらうようになったのです。
NBからすると、販売網を持っている小売が直接オーダーして、しかも一定の条件で買い取ってくれる。自分たちの製造ノウハウを提供して、場合によっては余っている製造ラインを活用することができるので、これはいい!となったのでしょう。卸や小売のオーダーをベースに、PBの生産を手伝いするようになります。しかしPBの製造はNBにとって自分たちの首を締め始めるのです。
卸や小売は、オーダーしたPBを販売する際、NBのように個別の商品を販促することはしません。当初の目的がNBよりも安く売ることを掲げたからです。そのため小売が持つ棚割りのなかで、同じようなNBの隣に、同じようなPBの商品を陳列することで、NBの目的買いのユーザーにその場で認知してもらい、価格の安さでPBを取るか認知度でNBを取るかを判断してもらったのです。小売からするとNBが売れてもPBが売れても、利益はでますので問題はありません。しかしPBが売れた方が利益率が良いことはわかっています。
例えば、NBの場合、商品の原価が3、販売促進コストが3、メーカーの利益が3とした場合、メーカーが小売に卸す価格は9になります。ここに小売店のコストと利益を乗せて12で販売したとします。同じようにPBの場合、商品の原価が3、販売促進は行わないので0、メーカーの利益が3、小売店のコストと利益の乗せて9で販売したとします。
すると、中身は同じなのに「NBは12」、「PBは9」からがスタートです。伝統的に価格の安さで大きくなった小売はNBを定価で売りませんので「NBを10」で売り「PBを9」で売るかもしれません。しかし、この場合、PBが売れた方が利益は多く小売に残るのです。
2007年以降、ITの発達によって、小売は徐々に気が付き始めます。顧客の決済情報を持っていると、各々の顧客の価格感応度やどの時期にどのような商品が売れるのか?エリアや顧客のセグメント毎にNBが良いのか、PBが良いのか。あるいは同じPBでもAのテイストが良いのか?Bのテイストが良いのか?徐々にデータ武装した小売りは今までメーカーが手にすることが出来なかった売上に直結するデータを握り、しかも直接購買する顧客にコミュニケーションできる事を発見したのです。
当時のNBは販売以下の下流工程を卸や小売に委託していました。あるいは、販売会社や関連会社にまかせていました。メーカーと自分たちを名乗るくらいですからモノづくりに力を入れ、販売や実際に購買した顧客に目を向ける事をしませんでした。仮に顧客に声を聞く場合は、広告宣伝を担っていた代理店やマーケティングの会社に頼んで消費者の声を代理で分析してもらうという事を繰り返したので、自分たちで直に顧客の声を聴くノウハウや発想そのものが無かったのです。
小売は顧客の決済情報を握り、顧客と直接コミュニケーションが行えるようになる。メーカーは顧客の声が見えないまま、データを必要とする時は、間に代理店やマーケティングの会社を挟んで分析する。IT化が進むと、この違いが如実に現れてきます。
その結果、小売や卸で規模を拡大した企業はPBを中心に商品を固め、店舗網を活用して商品を顧客に届けて高い利益率を出すようになります。ある企業は、販売をエンドユーザーに直接ネットで行うので足が長い商品は、物流の力を使ってとどけて、徐々にPBの比率を高める取り組みに進んでいます。その結果、メーカーと小売の力関係が逆転しているのです。
当たり前ですが、事業で収益を上げるためには直接顧客とコミュニケーションを取ったほうが優位です。昔は、それが難しい時代でしたが、今はそれが容易にでいる時代になりました。小さな企業や地方でNBを扱っている企業は、実は社内の資産に直接エンドユーザーとの契約があり、その方々の声があるのです。あるいは、実際にその価値に気がついていないだけで、少し工夫することでエンドユーザーの声を形にしてPBに近い商品を企画して、製造を上流工程のメーカーに委託することが可能なのです。
昔は下流工程の小売が利益率が低い商売でしたが、PBを取り扱うことで無駄な宣伝コストを払わなくてよくなります。顧客情報をITで管理して、適切に顧客にコミュニケーションを行える道具が揃ってきました。従ってきめ細かいコミュニケーションが可能になるので、それらを武器に、販売するたびに利益を出すもでるから、顧客が商品を購入してどのように活用しているかを理解する中で製品やサービスを提供することが可能になり、結果的にエンドユーザーとの接点が増え、事業が継続するようになるのです。
良いものを先行して作り、その商品を認知させるのにお金を使い、顧客のフィードバックを得るのにお金を使う。メーカーが行っていることは正に時代に逆行していますよね。自分で商品を判定出来ない人は高いコストを払ってNBを購入するでしょうが、PBは造っているところは一流メーカー。自分で情報を取り、小売店の方々に教えてもらい徐々に学習するエンドユーザーが増えると、NBの商品は苦戦します。そこでNBは消費者の目を向けるために、直接コミュニケーションを取ることを行わず、逆行して商品開発をすすめ、どんどん商品のリニューアルをすすめ、どんどん販売促進を進め、場合には販売報奨金を小売に渡して売ることにフォーカスしたのです。これが昨今のビジネスモデルで考えると如何に愚策かがわかりますよね。この取組をすればするほど価格が高くなり、自分たちの利益を下げることになるのですから。そこでようなくNBも顧客と直接やり取りをしようと動き始めている。いま、正にそのような時代になっているのです。