ガソリンスタンド事業の考察

2021年8月10日 火曜日

早嶋です。

ガソリンスタンドを数十以上経営する企業は、業態をガソリン販売中心からカーケア商品と言われる、洗車、オイル、タイア、バッテリー等のグッツ販売、そして車検や車販やカーリースへの提供に業態をシフトしています。この変化は文字で書くと「そうなの?」程度でしょうが、ジョブ理論でいるところのビックハイアへのフォーカスからリトルハイアへのフォーカスといい意味で大きな戦略転換になります。

■自動車販売台数
国内の自動車販売台数のピークは1990年頃でおよそ年間780万台。そして徐々に減少し1996年に若干の盛り返しがありましたが、それ以降は下り坂。現在2021年時点ではざっと500万台まで落ち込んでいます。

■ガソリンスタンドの店舗数
ガソリンスタンド(SS)の店舗数のピークは1995年頃で6万件です。そこから減少が続き、2003年頃に5万件、2009年頃に4万件、2018年頃に3万件と現在は3万件を下回ります。

■自動車の燃費
乗用車の燃費は1993年頃は1㍑あたり11キロ程度でしたが、2006年頃に14キロ程度まで向上します。国内では1997年にトヨタがハイブリットカーを発売したのを皮切りに燃費効率が良くなります。2009年頃には16キロ程度まで向上し、現在では乗用車の1㍑あたりの平均燃費は20キロから22キロ程度と1993年頃の2倍くらいまで伸びています。

■車の保有台数
現在、国内の自動車の保有台数は7,500万台から8,000万台です。この中には、バスやトラックや特殊用途の自動車も含まれます。ざっとここ10年の間で乗用車が4,000万台、軽自動車が3,000万台を下回る数で推移しています。

■試算(SS減少のシミュレーション)
SSによって月間に販売する油量は異なります。少ないところでは60kl/月前後で大型のスタンドでは300kl/月を超えます。仮にSS1店舗の平均油量販売が100kl/月だとします。SS店舗のデータを様々に見ると月に2回程度の給油来店があり、1回あたりの給油量は20㍑程度です。したがって、月間に販売される油量は以下のように推計できます。

・SS店舗数 約3万件
・SS店舗 平均販売油量 約100kl/月
SS月間販売総量=3万件✕100kl/月=30億㍑/月

ここから逆算して、SSを利用する乗用車等の台数を推定してみます。

・乗用車等 月2回給油、1回あたり20㍑
乗用車等の総台数=30億㍑/(2✕20㍑)=7,500万台

かなりざっくりとした計算ですが、大まかな辻褄は合いそうですね。

■リトルハイアにフォーカスした際のSSの粗利
従来通り、SSが油量の販売にフォーカスして商売を行ったとします。その際の毎月の粗利を予測します。現在、1㍑あたりのマージン(口銭)は10円から20円です。ここは間をとって15円と考えます。

SS1店舗あたりの油量の粗利=100kl/月✕15円=150万円

店長1名(40万円)、社員1名(30万円)、パート・アルバイト2名(30万円)として100万円。人件費比率50%としても費用は200万円程度はかかるでしょう。と考えると150万円の粗利では利益が出ませんよね。確かに苦しいイメージがわきますね。

そのためSSの経営の主体を給油メインの商売から付加価値商品に準じる、車のケア商品、洗車、オイル、タイア等、その延長の車検や車販やカーリースに触手を伸ばす理由が見えてきます。

■SS減少のシミュレーション
これまでの議論だと、なんとなく車の販売台数の減少と低燃費化の影響によりSSの経営環境が悪化したと考えることができます。そこで、車の販売台数を時を100(780万台)とした場合、現在は500万台程度なので64になります。車販ピーク時の平均燃費(1990年)は1㍑あたり11キロ程度。現在は、22キロ。このように考えると車の販売台数の影響0.64と燃費の影響が半分なので全体を1とした場合、0.32(=1✕0.64✕0.5)程度になるのでピーク6万件のSSが1.92万件(=6万✕0.32)になってもおかしくない数字です。

ただし実際は、車の保有台数で見ると、1990年は乗用車約2500万台、軽自動車約1500万台で合計で約4000万台でした。現在は、乗用車約4,000万台、軽自動車約3,000万台の合計約7,000万台です。そこで1990年の自動車保有台数約4000万台を100とすると現在は175(=7,000/4,000)です。

上記と同じ理屈で計算します。燃費の影響は0.5なので175✕0.5=87.5。従ってピーク時6万件の87.5%程度の数字、つまり約52,500件程度がSSの妥当な店舗数と推計できます。

ありゃりゃ、実際よりも減少しているぞ!ってことが言えます。とすると実は燃費の影響によってSSが減少したというのは全てを説明する要因ではないと言えます。

■SS減少の他の理由①
SS業界において1996年4月に「特定石油製品輸入暫定措置法」が廃止されます。これは特石法と称されIEA(国際エネルギー機関)の石油製品(ガソリン、とうっ湯、軽油)の輸入自由化要求に対して国内の石油業者を保護する目的で1985年12月に公布された法律です。特石法の施行によって石油製品の輸入については、貯油能力、製品の品質調整能力、製品の輸入量の変動に対応できる国内代替生産能力の3条件を満たす業者のみが輸入登録資格者として対応できる。という事実上、輸入業者を精製元売事業者に限定した内容でした。この規制緩和が廃止され輸入事業者に対して備蓄要件以外の制約が外れ競争が激しくなったのです。そのためSSのピークが1995年頃になっているのです。

■SS減少の他の理由②
更に、2010年6月「危険物の規制に関する規則」が改正されます。これによって2013年1月末までに給油所の地下タンクを改修することが必要となり、消防法の許可を得られない給油所が多数出てくることになります。地下タンクの改修交換は1,000万円から2,000万円の費用がかかると言われ、ただでさえ競争が激化して採算が取りにくくなったSSは継続が困難になったのです。

■SS減少の理由とポテンシャル
SS減少の理由は、車の保有台数こそ増加しているものの、1)燃費効率がピーク時の2倍程度まで高まり高効率の車が出てきた、2)特石法の影響で石油業界の規制がオープンになり競争が激化した、3)「危険物の規制に関する規則」によって地下の改修を出来ないSSが一定数いた。という複合的な理由であることがわかります。

一方で、SSスタンドは長らく規制に守られており、設備産業としての計画的メンテナンスを実は考慮していなかった地場の店主が2013年頃に市場から一気に追いやられた。という厳しい見方もできます。そして今SS店舗を展開している企業は、そのような状況にも耐えうる企業ということも考えられます。

車を取り巻く環境変化として、今後、電気自動車や可能性によっては一部水素を燃料とするモビリティが増えてきます。しかし一方ではガソリン車の販売が禁止になる2035年頃から急激にガソリン車がなくなることは無いでしょうが、燃料主体でのSSは確実に収益に陰りがあることが予見できます。

そのため従来の要領で立地戦略と規制に守られた商売を行ってきた企業文化があれば、今後の対応は厳しいこと間違いありません。

しかしながら、燃料がガソリンから電気や水素になっても、車の洗車やタイアの交換、可動部のオイルの調整等のメンテナンスは発生します。また、電気自動車になり車の自動運転が急速に進み保有から共有(シェア)になった場合は、同じ車体を複数の他人が使い回すことになります。当然に車内の清掃ニーズが高まります。しばらくの間は、人間型のロボットが開発されて普及するということも無いでしょう。自動運転をベースにシェアをすることを

現在のSSの立地条件は住宅地、商業地、工業エリア、そして幹線道路沿いです。つまりガソリン車が自動運転の電気自動車になっても上記のメンテナンスを委託して行う場所としては最適なのです。



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