物語の経済学

2020年1月30日 木曜日

早嶋です。

経済学が再び注目を浴びています。『物語の経済学』(米エール大学ロバート・シラー教授)です。大前さんも『経済心理学』という分野の書籍を随分前に出版されていますが、やはり「景気は人の気持ちによって動くよね」という感覚がどうやら正しそうだという内容です。

例えば、誰かが100年人生と言えば、これまで80歳でピリオドを打つ計画で暮らしていた人々が急に不安になり消費を減らしはじめます。その分貯蓄に回し、企業の売上が低迷し、実態経済の勢いが失われます。それに対してシーラー教授は物語(ナレティブ)が大きな役割を果たすと主張しました。

口コミ、報道、ソーシャルメディア、しいては個人のSNSなどが拡散して物語として歩き始めます。それが人の消費や企業の投資、それらが連鎖して景気の上下やバブルの発生や崩壊を生み、経済主張や政治まで影響を与えるといいます。その時のポイントは、物語の真実や真偽に関係なく、人々にストレートに受けて伝わりやすいものが爆発的に広がることです。

シラー教授は米国経済学会の会長として2017年の年次総会で講演しました。「なぜ景気後退が深刻化するか考えた場合、その主因は経済学者がモデル化したがる純粋な相互作用や乗数効果ではなく、人目をひく、はやりの物語である可能性を考慮すべきだ」と。

物議を醸し出したと思われますが、シラー教授は2つの問題意識を持っていました。既存の経済学が役にたっていないよねという疑問と、近年の経済学が極度に細分化してマニアックになりすぎているよねの2点dです(早嶋の解釈大)。これまで注目していた経済学に行動経済学がありますが、物語の経済学との違いをシラー教授は次のように説明しています。

行動経済学・・・心理学に立脚。人々の経済行為に安定的なパターンを見出す学問。
物語の経済学・・その時々に流布する言葉や解釈の変化を受け時間と共に人々の経済行動の変遷を捉える学問(試み)。

ビットコインが身近な事例です。何も価値がつかない暗号資産があっという間に世界に広がり、一時は30兆円をこす時価総額が付きました。人々を魅了する物語があったのです。ブロックチェーン技術を使い、コンピューターのネットワークを通じて世界中を自由に行き来する無国籍通過、考案者の「サトシ・ナカモト」と称する人物も物語を広げるのに一躍買っていると思います。

連日のコロナウィルスのニュース、春節で大量の中国人が移動するという話。これらの物語によって人々はマスクやうがい薬、そしてアルコール消毒を大量買して店頭商品が品切れを起こしています。オイルショックの時にティッシュが消えたりと同じような話が繰り返すもんだなと感じます。

物語の経済学。経済学としてはまだまだ批判的な意見もあると思います。具体的に個人の関心がどのような行動を引き起こし、どのように経済インパクトを与えるかということです。検証が足りていないという批判です。

まぁ、人の認知や思考には常に限界があります。全てを合理的に説明することはとてもむずかしいことです。一方で、経済の要因を突き止めるのは難しので、そこに人が聞いた話や感情に影響されて何らかの行動や決断を左右するという話自体が物語で、判断の基準に影響を与えそうです。そういう意味で企業としては、それらの影響を研究することで、あるいは成果を活用することで商品の購買や認知を得る道具として活用できるのではとも思います。



コメントをどうぞ

CAPTCHA