早嶋です。
企業の自社株買いが急増しています。野村證券金融経済研究所によると、07年度では4兆円をこえ、06年度の3兆9800億円を超え過去最高になる可能性もあるといいます。確かに、連日の紙面に自社株買いの記事を目にしますので、肌感覚納得できますね。
企業側の自社株会の理由として、キャノンは、「資本効率の向上を図るとともに将来の株式交換など機動的な資本戦略に備える」とコメントし株価を意識したものではないとしています。一方で、野村証券金融経済研究所の投資調査部ストラテジストは、「自社の株価が割安になったと判断した企業が自社株買いを実施したことが額の増加につながった」と指摘します。
さて、何を言っているのでしょうか?上記のやり取りを考えるためには、自社株買いそのものを考えるとよいでしょう。
株主へのリターンの仕方は、配当(インカムゲイン)と株価上昇益(キャピタルゲイン)の2つがあります。そして自社株買いも資金を還元する方法と見ることが出来ます。
自社株買い(自社株取得)とは、自社株取得後も株式を保有している株主が、自社株の申し入れに応じた株主から時価で株式を購入する事をさします。理論上、自社株会は株価に中立であるというのが一般です。これを理解する上で自社株取得による企業価値の変化を見てみます。
A社の時価ベースでのBSが現金200万円、その他資産800万円で負債はゼロとします。すると総資産は1000万円(200万円+800万円)です。仮に発行株式が100株であれば株価は10万円(1000万円÷100株)です。
A社が自社株会を行い、現金100万円で10株を購入したとします。購入した株は、消却(発行済株式数を減少させる)するか、M&Aに備えて金庫株として保管します(上記のキャノンの例)。どちらの場合でも企業価値は900万円になります。
ただ、株式数も100株から90株に減少するので株価は10万円(900万円÷90株)のまま変化しません。これが理論上、自社株買いは株価に中立である所以です。しかし、実際のマーケットでは、論理株価と市場価値はイコールしません。そのため、自社株買いはマーケットにシグナルを発信していると見ることが出来るのです。
野村のコメントで、自社株買いは経営陣が自社の株式を割安だと考えている証拠だとしています。これは、個人が株式を買う発想と同じです。割高なものを購入することは株主価値を減じることになるからです。わざわざ、株主価値を損ねるようなことをする人はいないですよね。
更に、自社株取得は、将来にわたって安定したキャッシュフローを稼ぎ出すという経営者の自信と見ることも出来ます。しかし、一方では配当を行ったときと同じで、将来の投資機会を損ねるというマイナスのシグナルと見ることも出来るのです。
結局、このようなレベルになると正解は存在しません。それ故に経営陣には高度なオペレーションが要求されるのです。ファイナンス理論にはある種の限界があり、その特色を理解した上で意思決定のツールとして活用する事が大切なのです。