ジョホールバル

2014年3月31日 月曜日

早嶋です。

本レポートは、2014年3月27日、28日の間に現地で視察、現地でのビジネスパーソン等との情報交換をベースに記述している。私見を多く盛り込んでいる。

【ジョホールバル(JB)】
日本ではワールドカップで有名になったジョホールバル。人口は120万人程度。マレー半島の最南端でシンガポールの目と鼻の先。マレーシアでは2番めの都市の規模。ジョホール州のスルタン(イスラム世界における大様)はお金持ちで庶民に優しく、高速道路や州の施設はほぼ無料で市民に開放している。気さくな人柄でジョホールバルの市民からも人気がある。

タクシーの運転手さんは、とにかくスルタンのことを褒めていた。シンガポールと違ってお金を取らないのは全てスルタンのおかげと。JBの高級ホテルに良くコーヒーを飲みにいき、気軽に声をかけても挨拶がかえってくるというほど市民にやさしいそうだ。

【イスカンダル計画】
海外の不動産投資に熱狂している方は承知の計画。シンガポールの海峡の反対側、JBに巨大な都市を創る計画。マレーシア政府とJB州政府が積極的に手を取り合って開発を進めている。総投資額10兆円で現在の人口規模を120万人からやく3倍にあたる300万人の都市をつくろうという計画だ。果てしなく規模がでかい。

開発はまさに都市そのもの。170万人分の人口なので2020年前に福岡市よりも大きな都市をまるまる創る計画だ。不動産、商業施設、学校、企業誘致等々、都市機能まるごと開発。

【ボトルネック】
ボトルネックは2つある。一つは投資物件に対して誰が住むかという点。もう一つは、そこに住む人の仕事はあるかという点だ。

実際に目にした感想だが、イスカンダル計画は実態が伴っていない印象。マレーシアではクアラルンプールの不動産投資も加熱しているが見学に行く限り必ずそこに人の気配を感じた、つまり投資した不動産に人の活動が結びついていた。一方、JBの計画都市は、まだ完成ではないことを承知の上でも、中国を中心とする海外からの投機マネーが加熱しすぎた感じ。

多くの外国人投資家がこぞってJBのコンドミニアムや住宅などの不動産に投資をしている。その数既に10万人以上の投資家。彼らは不動産を取得してそれをそのまま賃貸に回して利回りと不動産価格のキャピタルゲインを狙っている。しかし、賃貸を誰がするかを考えた場合、いくつか懸念点がある。

シンガポールの富裕層の場合。そもそも賃貸することは無い。かれらも魅力を感じる場合は直接投資する。自分たちが住むとしたら、毎日の通勤に国境を超える時間だけで往復2時間から3時間かかる、これだけで富裕層が時間を無駄にしてまでもJBに済むメリットはない。更に彼らは元々、政府の住宅開発局から比較的安価に住宅を供給されている。ますますメリットを感じない。

シンガポールの中流層。こちらも考えにくい。JBの物件は主に高級コンドミニアムが中心に開発されている。従って不動産は決して安い買い物ではない。仮に新しくイスカンダル計画で建設された物件に住むかと言えば、今住んでいる物件を手放してまで済むメリットは少ない。

マレーシアの富裕層。考えにくい。投資案件としては数は少なくなったもののやはりクアラルンプールが魅力的。こちらは投資をした物件に実需がついてきている。JBの不動産はまだまだ実需が追いついていない。従って、彼らの多くは様子見というところだろう。

また、JBまでクアラルンプールから3時間の距離というのを考えても、所有物件としては購入しないだろう。では彼らが投資をするかというとやや疑問。クアラルンプールの富裕層はJBに一つ距離をおいている印象があった。

マレーシアの中流層。こちらも考えにくい。中流層が住むには若干投資金額が大きすぎる。更に彼らが購入したくても物件が海外からの投機マネーによって跳ね上がっているからだ。実際は買いたくても買えないと考えているだろう。

現在、開発の多くは商業施設と住宅関連施設。工場の誘致や企業の誘致は進んでいるようだが、これと行った企業が入る確定は少ない。オフィスビルの開発も進んでいるがそもそもJBで企業が定着する魅力やメリットが少ない。

【越境に要する時間】
シンガポール中心地からJBの中心地まで移動に90分から2時間程度の時間がかかる。その内、1時間は国境にかかっている橋の通過にかかる時間。チェックポイントではマレーシア側とシンガポール側のチェックをダブルで受ける必要がある。更に国境にかかっている橋が常に渋滞しているため車が流れない。国境を渡る手段な車、タクシー、バスなどがある。バスの場合は自分で歩いて乗り継いで手続きをする必要がある。タクシーやバスは車の中だけで手続きが完了する。がやはり時間と手間が掛かり過ぎる印象。

【JBからシンガポール双方のメリット】
JBの最低賃金は900リンギット程度。インドネシアからの移民の多くが清掃作業の仕事などでこの賃金を得ている。ファーストフード店などでは1000リンギットくらい。一方、同様の仕事をシンガポールで行うと3倍位の給料を貰える。そのため、この手の仕事に従事している人はJBから時間をかけてもシンガポールに渡って仕事をしている。

但し、シンガポールで花型の仕事ははやりファイナンス関係。この職種はJBには少なくそもそも、シンガポールで仕事をしていることになる。また、ファイナンス関連は元々高級なのでJBとの行き来をしてJBに住む人はいても未だ数は少ない。

シンガポールで政府関係者などは国の助成を受けた住宅に住むことができる。従って、彼らがJBに住むことは考えにくい。その他の高給取りも既にシンガポールに居を構えている。中流層に対してはJBからの通勤は視野に入れているところだろう。例えば、シンガポールの外れに位置する郊外の住宅で60m2程度のマンションでも3000万円から4000万円はする。

これに対してJBだと同等のマンションであれば1000万円から1500万円で購入できる。従って、既に多くのシンガポール人がJBにも住んでいる。またシンガポールで庭付きの家を持ちたい人はそもそも土地が無いのでNG。このような人もJBは魅力的だろう。

しかしイスカンダル計画が始まる前から既に上記の生活があるので、新たに住宅量を2倍、3倍と供給してもそうそう埋まらないと考えられる。また海外からの投機マネーが流れ込んでいるため、決して不動産価格が安くなっているわけではない。そうそう簡単に購入できる価格ではない。

【開発資本】
これは完全に主観になるが、韓国や中国資本が入っている地域には特徴がある。何となく洗練さがかけるということだ。JBの開発の多くが中国系、韓国系のデベロッパー。施工があらくデザインが今ひとつのところも多くある。特に、海辺のせっかくの景色が夜はなんとも言えないネオンで台無しになっている。まぁ、この感覚が好きな方々が投資をするのだろうから、これは完全に余計なお世話だ。

【実態との不一致】
イスカンダル計画を背景に、既に多くのコンドミニアム急ピッチで建設されている。2015年までに認可を受けると政府の支援を得れるという条件があるためだ。計画的に作られた街には人影がまばら。不動産の購入者はいても、実際には賃貸する人がいないという最悪の結末を迎えないと良いのだが。

仮に、完成後にその不動産に移住したとしても、その人がお金を稼ぐためのビジネスがJBにそもそもあるとは思えない。まだまだ企業の誘致が進んでいないから妥。実際、政府や躍起になって企業誘致を進めているが、その状況は不明。

都市の作りは学術期間の誘致などを見ると、別にリタイアした層にとって魅力的である街ではない。なので既にお金を持って余生を過ごす場所としての選択は考えにくい。新しい開発地はハード面が仮にあったとしてもソフト面が充実しないからだ。仮に、リタイア組を狙った開発だと言っても、多くは様子見をするでしょう。ということはここの層を増やすのは容易ではない。

かと言って、その人数が全てシンガポールで仕事をする口があるかと言えば疑問。元々ファイナンスで特化した国。ファイナンスの仕事は労働集約ではない。一部の優秀な人間が会社の多くの利益を稼ぎだすビジネス。そんなに仕事が増えるとは考えにくい。

シンガポールは既にあらゆるビジネスが細かくセグメント化され多くの企業がポジションを工夫して作り出している。つまり経済の伸びが今後急激にあるわけではなく、既に飽和し始めている証拠だ。

【JBのポジショニング】
そもそもイスカンダル計画の都市づくりのコンセプトは何か。広い意味での企業誘致を6つのカテゴリに分けて実施しえいるが、全てクアラルンプールやシンガポールにある都市と変わらない。つまり、ゼロから始める割には真っ向勝負していることになる。

世の中、他の地域も含めて企業誘致を大々的に行っている場所は他にもある。その中で、2番煎じ、3番煎じになっている印象。繰り返し書いているがシンガポールは圧倒的に金融や貿易に強い。安い人件費を提供するビジネスはJB以外にも多々ある。ITC等を考えてもそのビジネスを誘致すること事態が難しい。

レゴランドやキティランド、一部の学術機関があってもそれが起爆的な魅力に鳴るかと言えば疑問。クアラルンプールは、実際に生活の感覚があり、現地の人口が増え、所得が増えている。それを機会に外人投資家の高額物件であっても徐々に自分たちも購入するようになっている。従って実需が投資に追いついている。一方、JBは街を巡っても歩いてもその感覚が感じられない。

例えば、シンガポールが必要とする電力施設や逆浸透膜水工場の施設等を作り、シンガポールに安定供給する仕組みを充実する。あるはいその電力は他のマレーシア州に共有するなどのポジションをとったほうが、双方に対して優位な交渉力を身につけることができる。電力関連、水関連の施設を誘致して、電力と水が安定していた貿易やファイナンスの中心であるシンガポールに近い。となると一気に魅力を感じるようになる。それからその周辺に労働力を確保する街を作り、高級ではなく中流とかその以下が集まる住宅を提供して、サービス業のバックオフィス的な機能をまるごと誘致するというように、段階を踏まえた誘致があるとよいと感じた。

JB政府はマレーシア政府と対向している感じがある。そのため大きくイスカンダル計画を打ち出した。JB州政府の開発地域を見ていると、マレーシアが先行に行ったプトラジャヤの行政地区開発を思い出す。なんとなく、華やかな計画を打ち立て、途中で頓挫を繰り返すマレーシアの残念なパターンに鳴るのではないかと感じた。

勿論全くの失敗ということは無いでしょう。むしろ、ある程度の都市機能が根付いて来るでしょう。が投資家が言っているほど実態を伴ったものではないので賃貸物件がもたつく頃にどっとそのお金が引き始め、おもうようなリターンを上げれなくなると思います。



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