ゼロから開発する理由

2012年10月26日 金曜日

早嶋です。

リバースイノベーションの大前提は、富裕国のビジネスが1000円使う一人を相手にすることに対して、貧困国では100円を消費する10人を相手にする発想です。例えば、2010年の米国の一人あたりの年間国民所得は47000ドル。一方インドは3000ドルでした。どんなにインドが成長を遂げようとも、アメリカに追いつくには2世代くらいの時間がかかると言われています。それほど、一人あたりの消費する力に違いがあるのです。
この事実を良く理解しないまま、富裕国のトップは、貧困国も生活レベルが向上すれば富裕国で提供していた製品やサービスを求めるだろう。と考えています。しかし、これは落とし穴です。この発想が強いため富裕国で培ったビジネスを捨て、ゼロベースで貧困国向けのビジネスを行う必要性を微塵も考えることがないのです。

富裕国と貧困国では、私達が想像する以上にギャップが多く潜んでいるようです。このギャップを考える場合、性能、インフラ、持続可能性、規制、好みの5つを富裕国と貧困国で比較すると実態が見えてきます。

性能のギャップです。毎日の生活をやっとのこさ過ごしている貧困国の人々は、我々が当たり前と思っている富裕国での性能レベルを必要としません。その背景は、そこまでお金を払うゆとりが無いというのが大前提です。我々の発想では、ものが安い場合は、買い置きをしますが、貧困国ではその発想はありえません。その日暮らしの場合もあるので、使う分しか買わないのです。これは味の素やおむつ等、全てを個装販売している企業を観察すると良く理解できます。パッケージ1つとっても大きな違いがあるのです。

例えば、富裕国ではベスト、ベター、グッドという3種類の製品展開を通常は行なっています。

 グッドな製品は80%の価格、80%の性能。
 ベターな製品は90%の価格、90%の性能。
 ベストな製品は100%の価格、100%の性能。

ですが、貧困国では、80%の性能自体が求めすぎとなる場合があるのです。従って、70%の性能を70%の価格で提供するのが妥当だろうと富裕国のトップは考えます。しかし、実際そのような市場は貧困国には受け入れられません。70%の性能でも十分すぎる、価格が合わないというのが理由です。従って途上国の人々は超割安な割に、そこそこ良い機能を持つ画期的な商品に飛びつくのです。富裕国の安いの感覚は、貧困国からすると10倍の金額であることを忘れてはいけません。

従って、金額の割にシビアであることは理解できます。品質にもやかましくなるわけです。そこで10%〜15%の価格で50%の性能を提供する、というのが貧困国の1つのベンチマークとなるようです。となると全くゼロベースの開発が必要になるということです。単に富裕国の品質を下げて価格を少しばかり下げるのでは追いつかないということです。そうゼロから始めることが重要です。

インフラのギャップです。富裕国に住んでいる限りインフラの不足を感じる機会は少ないです。しかし、短期間でも貧困国や途上国に旅行に行くと感じることがあります。日本では当たり前のことが当たり前ではないことを。例えば物理的な基盤である道路、電気、通信網、電車、バス、飛行機など。例えば社会的な基盤である学校、病院、図書館など。例えば産業基盤である銀行、裁判所、株式市場などです。

これら、いざビジネスを行おうと思って、インフラが整備していることを前提に考えていますが、無ければかなりの困難が待ち受けます。従って、企業が意識していない富裕国でのこれらのインフラは実は強力な資産となるのです。そして無意識のうちにこのような強力なしっかりとしたインフラを前提に製品やサービスを開発提供しています。従って、このギャップの認識は極めて重要です。ただ、プラスに捉えるとこのようなインフラがないことを前提にすると、今まで考えなかったことを考えるようになるという意味では新しいイノベーションの機会が沢山あるとも考えることが可能です。

例えば、貧困国が始めてインフラを建設する場合、富裕国の最新の設備をベースに投資開発が行われます。富裕国の場合、インフラの整備が既に終わっている理由で、最新の設備があったとしても一気に回収することは出来ないので、古いインフラを活用せざるを得ない状況も多々あります。また、一部の開発を進めたとしても過去の古いインフラとの互換性があわずに中々進まない。ゼロベースで行ったほうが早いのにそうもいかない。そんなジレンマも観察できます。その意味では未発達という点から一気に躍進する可能性が高いのです。実際、貧困国でも一部の栄えた都市に行けば最新鋭のインフラで固められた街を観察することが可能です。

持続性のギャップです。経済活動と環境問題は切り離すことが難しくなっています。貧困国では環境のことまでを考えて経済活動を発展さえる余裕がないので、結果的に環境破壊が進むことも考えられます。この事例は中国の大気汚染を見るとよく観察できます。これがベースで中国は早い時期から大気を汚さないための移動として電気自動車に力を入れてきました。貧困国富裕国に関わらず地球の環境に対して高い付加がかかる方法で経済活動を続けると、いつしか限界がくるでしょう。そして、それは映画の世界にみるような最悪の結果となるでしょう。これらを考えると、今後貧困国を含めた多くの国々が経済活動を続ける大前提は環境負荷が少ない地球にやさしいソリューションに限定されるようになるでしょう。従って、新興国、貧困国でのビジネスに環境負荷を考えた技術やソリューションは今後も継続的に成長する分野の1つになるでしょう。

規制のギャップです。競争が無ければ成長はない、イノベーションも生まれない。従って、規制をかけることは短期的に見て国益を守ることにもなりますが、長期的に見て規制はマイナスの方向に導くことも考えられます。通常、貧困国は政府の整備も遅れているため、規制がゆるやかな場合が多いです。従って、規制の影響を受けない、結果的により早い時期に新しいイノベーションが導入される可能性が高くなります。

嗜好(このみ)のギャップです。これは国や地域毎に異なる味覚や習慣、儀式などの多様な文化からくるギャップです。これらは日常的な食事の味から、思わぬ儀式までありとあらゆるギャップが存在します。フィリピンでは氷を食べる習慣があるので冷蔵庫の設計では冷凍室が大きくなります。韓国ではキムチ専用の冷蔵庫が売れます。イヌイットの民は冷蔵庫は、凍らせないための器械と解釈しています。外気温がマイナス40度まで下がるからです。インドでは機械は音がするものだという認識が強く、空調の静音バージョンは人気がありません。

上記のように、性能、インフラ、持続性、規制、そして好みのギャップから分かるように、途上国や貧困国の消費は未だに解決できていない課題がゴロゴロ転がっています。一方で、そのような国々は富裕国が数十年前の発展するフェーズで体験したことのないような最新技術と隣合わせの世界があります。

富裕国のビジネスの感覚で行くのではなく、その国にあったゼロからのビジネスが必要なのです。リバースイノベーションの著者はこの状態を白紙状態と表現していました。

参照:リバースイノベーション



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