早嶋です。
航空会社は、テロや経済危機など、外部要因の変化に大きく依存します。SARSの流行、911テロ、リーマンショック、原油価格上昇はそれを示した事例でした。エアラインのビジネスモデルは外的要因によって需要が直ぐに2割、3割変動します。そういう意味で非常にボラティリティが高いビジネスです。しかもコストの半分は固定費なので、売上の変動は収益を極端に左右するファクターとなります。
飛行機は高価で複雑な機体を使用するためオペレーションの難易度が高いと言われます。特に大手キャリアの場合、路線ネットワークが膨大かつ複雑です。従って便数の運行管理、機材繰り、機材の稼働率管理など、そのオペレーションは多岐に渡ります。管理コストも高いわけです。
上記を考えるとLCCが安くマネジメントされる理由がよくわかります。多くの航空会社が使っていて、最も運航コストが安い機体に統一して、安くで仕入れる。LCCの殆どは機材を中古で仕入れ、安いコストで整備し、誰も飛ばしていないけど、そこそこ搭乗率が見込める空港と路線を見つけ出します。結果、マイナーな空港になるため、空港使用料もメジャーな空港と比較すると安価になります。そして、その路線を集中的に往復させます。はじめに参入することで、その路線を独占する可能性が高くなります。また、もともと機材が小さいので、比較的効率良く座席を満席にすることが可能です。つまり超ニッチな戦略です。LCCと言えども基本的な構造は変わらないため、このように稼働率を高める工夫をすることで利益を安い運賃でも出しやすくしています。
JALの再生は、結局のところ競争が無い時代からのゆるい管理が問題で高コスト体質になっていた。従って、まずはそこにメスが入れられました。結論、飛行機の数、路線の数、従業員の数が実際の規模と比較して3割程度多かったことが原因です。ここにメスが入りました。これによって、震災が起きた後でも黒字がでる体質になりました。固定費が高くて、稼働率が悪ければ、利益がでないのは当たり前。そこで固定費を下げ、稼働率を上げることで利益が出る体質になったのです。つまり、JALの再生は当たり前のことをしただけのようです。
では、今後のJALが仮に再上場を果たして収益を上げ続けることができるでしょうか。以下の理由から、それは難しいと思います。
まず、日本の航空業界は、国内が安定収益で、国際線は利益が出たり出なかったり。国際線は出るときは出るが、利益が出ないときはさっぱり。つまり、ハイリスク・ミドルリターン。しかしこれは米国では真逆になります。米国の国内線は完全競争市場のため、殆ど利益が出ないのです。利益が出るのはどちらかと言えば国際線です。その理由は、国際協定です。例えば羽田・ニューヨーク間に10便飛ばすとすれば、日本が5便、米国が5便と決められます。この限定された発着枠に、日本と米国のエアラインしか入れないため競争が限定されるのです。結果、双方が協調的な戦略を取れば、ある程度の価格が維持されるようになります。従って米国企業から見たら、国際線のほうが利益を出しやすい環境なのです。米国内の路線はLCCの参入でマイルのタガも崩れます。一方国際線は規制のお陰で競争が生じにくい、利益が出しやすいのです。
日本は、これまで実質JALとANAの2社だけでした。そしてハブとなる空港は羽田のみ。多くの路線を羽田起点で飛ばすことで効率が良くなり稼働率が上がりました。従って、LCCのようなモデルは考えられませんでした。地方と地方を結ぶ路線が結局廃止になったのは羽田が大きすぎたのが理由でしょう。福岡から札幌に飛ばすよりも、福岡羽田、羽田札幌と飛ばしたほうが稼働率が上がる。国内の競争が低いから、福岡から沖縄に行くより、台湾に飛んだほうが運賃が安い構造が出来上がってしまったのです。
ということは、国内線は今後、LCCの参入でJALもANAもこれまで通り安定的に収益を上げるのが苦しくなるでしょう。JALが黒字体質になったと言っても、競争が無い時代の環境でようやく黒字化ですから競争が激化する今後の国内線でも収益を上げるようにするためには売上を上げるしかありません。しかし、ここの打ち手はありません。
更に、国際線にも問題があります。日本の航空会社の路線がアジア中心になっていることです。今後アジアの空が航空自由化になることで競争がますます激しくなります。利益が出る体制に持ってきた所で、アジアの人件費と比較したら日本の航空会社は相当苦労するでしょう。結果、ますます国内線たのみのビジネスになります。しかし、国内線は新幹線との戦い、アジア諸国のLCCの参入により、国内線はアジア市場との境界がなくなる可能性も出てきます。ますます大変な状況になるのです。
米国の航空会社が海外路線で利益を出しやすいのは、ヨーロッパ路線、太平洋路線が中心で、顧客が先進国の方々であることもあります。互いに人件費が高い国々で協定を結んでいるため均衡が保たれ価格競争になりにくいのです。
アジアの航空会社では年収100万円程度でフライトアテンダントを雇用することが可能です。これは製造業でもそうでしたが、サービス業でも同様のことが待っていることを示唆します。現状で利益が出るようになったと言っても、これまでムダな部分を削ぎ落したのみ。今後、アジアとの競争が激しくなると、根本的にコスト構造を見なおさない限り利益が出にくい状態になるでしょう。
航空機ビジネスの大きなコスト要因は3つ、人件費、機材費、燃料費です。機材費に関しては、中古で仕入れる、同じ機種に絞ってコストを下げるなどがありますが、大手キャリア同士ではそんなにコストを下げれることはありません。燃料費は世界共通なので、どこも同じです。とすると、残るは人件費。はじめから1/10の人件費の相手であれば、この部分は大きな差になるでしょう。