短期的なインセンティブの落とし穴

2010年7月11日 日曜日

ダニエル・ピンク氏の著書、Driveによると、これまで信じられてきた報酬による動機付けは、創造的な作業においては全く、逆効果を生むことを触れています。報酬が思考の幅を狭める傾向があるのです。

特に、「もし●●が出来たら、報酬を●●円あげるよ!」という具体的な交換条件付きの動機づけも思考を委縮させる恐れがあるとしています。長期的な思考が出来なくなり、目の前の実利に気がとられる結果でしょう。

報酬による動機付けは単純作業や繰り返し同じ思考を求められる仕事に対しては功を奏してきました。しかし、21世紀に入り、創造的な仕事が求められるようになると、報酬といった外的要因による動機づけは逆にその効果を損ねることがあるのです。

これは近年の株式公開企業を観察しても納得します。株式公開企業は企業ヴィジョンにそくして永続的な発展を求めています。一方で、企業の管理職や役員の多くの日々の業務は四半期の業績を目標にしているかのように働いています。

極端な話、四半期の業績を向上する投資に力を入れ、市場が好意的に反応する状況を好み、多くの時間と英知をアナリスト説明会や株主説明会に注ぎます。実際、四半期の業績ごとに管理職や役員は評価され、さらに株価にリンクした評価もあるため、上記のような行動は理解できます。

しかし、四半期よりももっと先に目を向けないと企業の成長と繁栄はあり得ません。ピンク氏の調査によれば、四半期のガイダンス等に時間を費やす企業は、そこまで頻繁に行わない企業と比較して、長期的な成長率が低い傾向にあるとありました。短期的な目標達成は出来ても、3年先、5年先の中・長期的な健全性は危うくなるのでしょう。

短期的な目標を達成することによって得られるインセンティブにより、短期的な利益を追うような組織になるのでしょう。結果、長期的な影響を与える意思決定に十分な時間を費やさなくなるのかも知れません。

リーマンショックは、上記を代表する例としてとらえる事が出来るかもしれません。住宅購入者、手数料を当てにしたローン・ブローカー、新種の株式を手に入れたいトレーダー、好景気を前面に押し出したほうがよいと考えた都合のよい政治家。経済に加担する全ての役者が短期的な報酬に目を向けた結果がリーマンショックだったのかも知れません。

 

早嶋聡史



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