香りとビジネスのあれこれです。
ロンドンの高級デパートハロッズでは、水着売り場にココナッツオイルの香りを放香しています。サンオイルの匂いを想起して夏のイメージを膨らませ、購買意欲が高まるのでしょう。同様に、ガーデニング売り場では瑞々しい芝生の香りを流しています。また、装飾品売り場ではザクロの香りを流しています。
アウトドア用品のノースフェースでは、入り口にヒノキとユーカリとローズマリーを独自にブレンドした香りを流しています。来店客が香りを嗅ぐ事で自然の中にいるような感じを得て、購買意欲を喚起させる目的です。
うなぎのかば焼きを食べる時、やはりあの焼き上がりの匂いが食欲を湧きたてます。焼き鳥や焼き肉も同様です。クレープ屋さんの前を通ると、香りがします。やはり、急に食欲が湧いて思わず買いたくなるかもしれません。
このような香りを購買する要因の1つとして取り入れるのは自然な取り組みですね。
香りの研究の中で、その香りと想起する対象物が一致する事が最も大切な要素の1つ、という報告がありました。例えば、家庭用洗剤に対して、それぞれレモンの香り、ココナッツの香り、香りなしを準備します。洗剤に香りを付けているだけですので効果は同じです。これを各グループに使用してその効果を聴いたところ、統計的優位な差でレモンの香りの洗剤が圧倒的に「良く落ちる!」と応えたそうです。洗剤の香りにレモンやかんきつ系の香りが多いのも、この理由でしょうか。
香りは、購買行動を喚起する機能もあるようです。例えば、心地よい香りは店舗の評価を高くする事がある、という事が実証されています。ラベンダー、ミント、ジンジャー、オレンジなどの香りを流した場合と流さなかった場合を比較して、店舗に対する評価、品ぞろえに対する評価、再来店意向などが著しく高くなる事が分かっています。
これらはギャンブルの世界にも応用されています。ある遊戯施設では、特定の香りを流した場合と流さない場合の平均的な売上に圧倒的な差が出る事を実験しています。実験ではある香りを流した場合、流さない時と比較して45%も売上が伸びた事が報告されています。驚くべき事実ですね。
香りは、上記のビジネスの世界以外にも有効な活用方法が期待されます。例えば、耳の遠い高齢者や視覚障害者などにたいしてです。警報ベルが聞こえない方のために、香りで危険を知らせるのです。例えば、火災報知機は音と光で警告しますが、そのかわりにワザビのツンとする香りを出す事によって警告するのです。この方法は脳に直接刺激を与えるため、健常者で寝ている人にも効果があることが報告されています。
香り。日本人は昔から香りにも趣を向けていましたが、感性が重要になってくる成熟社会では、その有効性が広範囲にわたって試されていくことでしょう。
早嶋聡史