新規事業の旅157 NDAを結ばない時

2025年1月31日 金曜日

早嶋です。1600文字。

NDA(秘密保持契約)は、企業間で機密情報を共有する際に重要な役割を果たすが、必ずしもすべての状況で締結すべきものではない。特に、スタートアップと協業を視野に議論を始める段階では結ぶことで双方にとって都合が悪くなることもあるからだ。以下、NDAを締結すべき状況と、締結しない方が良い状況を整理する。

●NDAを結ぶべき状況
議論が既に具体的で、協業や提携の競技が詰まった・或いは開始した場合。つまり、企業同士が特定のエリアでの事業提携や資本提携を検討する際、詳細な財務情報や技術情報を共有する場合がある。このような場合、NDAを締結することで情報漏洩を防ぐことができる。

M&Aの交渉を行う場合。やはり、買い手と売り手がM&Aの可能性を探る際、財務情報、事業計画、顧客情報などのセンシティブな情報を開示する必要がある。この場合、NDAがなければ、交渉が不調に終わった場合でも情報が流出し、競争環境に悪影響を及ぼす可能性がある。締結が必要だ。

共同開発や技術ライセンスの交渉を行う場合。企業間で新しい技術や製品の共同開発を進める場合、特許や開発ノウハウを相手方に開示することになる。従い、NDAを結んでおかないと知的財産の流出リスクにつながる。

企業の機密情報を知る必要があるパートナーシップを検討する場合。例えば、流通網や販売戦略を共有する提携交渉などは、互いのノウハウや繊細な情報を開示しなければすすめることが難しい。この場合、企業の戦略的情報が競合に漏れるリスクがあるため、NDAを締結すべきだ。

●NDAを結ばない方が良い状況
初期段階の探索的な議論や情報交換の場合はNDAが足かせになる場合が多い。スタートアップと大企業が協業の可能性を探る際、まだ具体的な内容に踏み込んでいない段階でNDAを結ぶと、大企業側は他のスタートアップとの議論が制限される可能性がある。逆にスタートアップ側も、別の企業との連携を模索しづらくなる。大企業が協業をベースに新規事業の実現を画策する際は、ミドルリスト100社くらいには毎週のようにZoom等でミートアップする。その初期の段階で毎回NDAを結ぶのはスピード感も遅くなるし、管理コストも跳ね上がる。「まず一般的なアイデアレベルで議論し、協業の可能性が見えた段階でNDAを結ぶ」方が実務上は効率的だ。

公開情報レベルの話しかしていない場合。例えば、企業のWebサイトに掲載されている情報や、一般的な業界動向について話す場合、NDAは不要だ。過剰なNDAの締結は、契約管理の負担を増やすだけでなく、柔軟な議論を阻害するからだ。

競合する複数企業との議論が必要な場合。例えば、大企業(A)がスタートアップX、Y、Zと同時に並行的に協業の可能性を探りたい場合、最初から全社とNDAを締結すると、特定のスタートアップとの交渉が進まなかった際に、他のスタートアップとの議論まで制約される可能性があるのだ。このような協業をすすめる際は、NDAを結ぶか否かの判断はビジネスセンスが問われる。競争環境を維持しつつも、オープンな議論が可能な形にする方が、最適なパートナー選定につながるのだ。

NDA締結によって交渉力が著しく制限される場合。NDAの内容次第では、「本件に関する情報は他者と共有しない」といった排他的な条件が入ることがある。そうなると、締結した企業以外と話ができなくなるリスクが生じるため、契約内容の精査が必要。新規事業の取組で協業先行での議論を考える際は、NDAは諸刃の剣になるのだ。

NDAは、企業間の機密情報を守るために重要だが、無闇に締結すると交渉やビジネスチャンスを制限するリスクもある。特に、初期段階の情報交換ではNDAを結ばず、協業の方向性が具体化した時点で締結する方が、効率的かつ柔軟な進め方になる。「情報の機密性」「交渉の具体性」「他社との自由度」のバランスを鑑み、NDAの締結を判断することが重要だ。

(過去の記事)
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