新規事業の旅 147 ハルメクに学ぶ新規事業の初め方

2024年11月15日 金曜日

早嶋です。

国内の雑誌市場規模は、過去10年で半減(14年に約8,500億が23年は4,400億)しているなか、また、インターネットやスマフォの普及により、情報収集手段が多様化した環境化に、「ハルメク」は50代以上の女性を対象とした月刊情報誌で売上を伸ばしている。健康、料理、おしゃれ、お金、著名人のインタビューなど、多岐にわたるテーマを取り上げるハルメクマガジンだが、書店での販売を行わず、定期購読者の自宅に直接届ける事業モデルで2022年12月時点で定期購読者は50万人を超えている。

ハルメクマガジンを運営する株式会社ハルメクは、出版事業と通信販売事業を展開する。また、シニアに特化した法人コンサルもスタートしている。同社は50代以上の女性を対象とした月刊誌の発行、関連する商品を取り扱う通販事業、法人向けのコンサルが主な事業セグメントだ。

ハルメクHDの売上高は、近年着実に増加傾向だ。2024年3月期の連結売上高は、前期比9.3%増の314億1500万円で過去最高を達成。2025年3月期の連結業績予想では、売上高を前期比8.2%増の340億円と見込んでいる。低迷する雑誌市場において、書店を中抜して直接エンドユーザーとつながるD2Cの事業を行い、その顧客との関係性の中で事業を拡大する。注目にあたいするモデルだ。

決算期 売上高(百万円)
2021年3月期 15,135
2022年3月期 25,233
2023年3月期 28,738
2024年3月期 31,415
2025年3月期(予想) 34,000

ハルメクHDの売上セグメントは、ハルメク事業(240億)、全国通販事業(77億)、法人事業(12億)だ。ハルメク事業は、月刊誌「ハルメク」の発行を軸に、物販(カタログ通販、オンラインショップ、店舗販売、新聞外販など)、コミュニティ(講座やイベントの開催)、先行投資(新規事業やサービスの開発)だ。全国通販事業は、ことせ物販という事業名でシニア向けの商品を取り扱う通販事業を展開している。法人事業では、シニア企業向けのマーケティング支援やコンサルティングサービスを行う。少子高齢化を上手く事業チャンスと捉えた事業モデルであることがうかがえる。24年3月期の内訳を示す。

セグメント 売上高(百万円) 前年同期比
ハルメク事業 24,029 +8.9%
全国通販事業 7,721 +10.2%
法人事業 1,246 +10.6%
調整額 -345 –
合計 31,405 +9.3%

(ハルメク事業)
ハルメクは、50代以上の女性を対象とした月刊誌で、定期購読者数は約50万人に達す。その人気の理由と特徴は以下のとおりだ。

●読者の声を反映した編集方針
編集部は毎月約3,000通の読者からの意見はがきを受け取り、これらを丁寧に読み込む。さらに、年間200回以上の読者との直接対話を通じて、読者の関心や悩みを深く理解し、誌面に反映する。

●多岐にわたるテーマ特集
健康、料理、おしゃれ、お金、著名人のインタビューなど、幅広いテーマを取り上げている。もちろんこのテーマは、読者層からのインタビューや統計から設定したものだ。例えば、スマートフォンの使い方特集などは、読者ニーズに即した企画から好評を博している。

●書店での販売を行わない直販スタイル
流通は書店での販売を行わず、定期購読者の自宅に直接届けるスタイルを採用している。これにより、読者との直接的な関係を築き、きめ細やかなサービス提供が可能となっているのだ。

●高い読者満足度と継続率
読者の声を積極的に取り入れた編集方針で、高い読者満足度を維持していると推察できる。具体的な継続率は公表されていないが、定期購読者数の増加からも満足度とともに高い継続率がうかがえる。

ハルメクの定期購読の料金は12冊1年コースで7,800円、36冊3年コースで18,900円だ。
50万×7,800円=390億円
50万×18,900円×1/3=315億
これから類推すると、定期購読で3年を選ぶ人が多いのだろう。24年3月の売上が240億なので定期購読の定義は少し不明瞭だが、雑誌単体に加え、一部物販やコミュニティがあるとしても、単体の雑誌の売上としては驚異的だ。

例えば、新聞売上トップ3(直近の売上高、発行部数、月間購読料)は2,000億から3,000億の売上だ。

日経新聞 3,500億 139万部 5,800円
朝日新聞 2,700億 414万部 4,900円
読売新聞 2,500億 642万部 4,400円

1つの媒体で200億から300億クラスは、地方新聞社の売上や発行部数に匹敵する。50代女性シニアの定期購読雑誌のみで50万部、240億の売上の凄さが分かる。

西日本新聞 335億 40万部
中国新聞 194億 40万部
北國新聞 184億 30万部
河北新報 170億 30万部

(全国通販事業)
ハルメクの通販事業は、シニア女性のニーズに応える多様な商品を取り扱う。特に、以下のカテゴリーが主力商品だ。

●ファッション関連商品
シニア女性の体型や好みに合わせた衣料品や靴などが人気のようだ。例えば、理学療法士の理論を基に開発された靴や、シニア女性の体型にフィットするインナーウェアなどが好評を博している。

●健康・ヘルスケア商品
健康維持や生活の質を向上させるためのサプリメントや健康器具などが取り揃えられている。これらの商品は、シニア女性の健康への関心の高さに応える形で提供されている。

●生活雑貨
日常生活を快適にするためのキッチン用品や掃除用具など、実用的な商品も多く取り扱う。これらの商品は、読者の生活を豊かにする提案として提供されている。

具体的な売上構成比や商品別の売上高については公表されていないが、ハルメクの雑誌の中で特集したり、読者の声からあがってくる「困りごと」や「あったらいいな」を企画しながら商品づくりをしているので、直接ターゲットに対して確実に販売できることが予想できる。素晴らしい事業モデルなのだ。

通常、新しい商品の認知を得るのに、ものすごい広告コストや販促コストを要す。しかし、ハルメクの場合は、読者が定期的にお金を払って情報を仕入れ、その中で自然と雑誌媒体や他のメディアを通じて商品の魅力や理解を伝えている。押し売りではなく、50代女性に寄り添った事業モデルなのだ。

(法人事業)
法人事業部門は、シニア女性市場に特化したマーケティング支援を提供している。具体的なサービスとして、マーケティングリサーチがある。30年以上にわたるシニア向け事業の経験を活かし、シニア女性のニーズや市場動向を分析し提供するのだ。次に、広告運用がある。自社媒体である雑誌ハルメクやウェブサイトのハルメク365を活用して、ターゲット層に効果的な広告展開を行うサービスだ。更に、クリエイティブの制作も提供する。シニア女性に響く広告クリエイティブの企画・制作を行い、クライアント商品やサービスの魅力を効果的に伝えるのだ。自社媒体で培ったノウハウを外部にも商品として展開しているのだ。

(新規事業の拡張)
ハルメクは、当初は雑誌事業からスタートし、その後、通販事業や法人向けコンサルティング事業へと事業領域を拡大している。お手本となる事業拡大のあり方だと思う。

●雑誌事業の開始
1996年に、50代以上の女性を対象とした月刊誌『いきいき』を創刊。この雑誌は、シニア女性のライフスタイルに焦点を当て、多くの読者から支持を得てきた。

●通販事業への進出
雑誌の成功を背景に、読者ニーズに応える形で、関連商品の通販事業を開始。読者は雑誌で紹介された商品を直接購入できるようになり、事業の多角化が進む。

●法人向けコンサルティング事業の展開
雑誌と通販事業で培ったシニア女性市場に関する知見やノウハウを活かし、他企業向けのマーケティング支援やコンサルティングサービスを提供する法人事業を開始。シニア市場に参入を検討する企業へのサポートを行っているのだ。

ハルメクは雑誌事業を基盤に、ターゲットである50代女性のニーズに応じた通販事業の展開、さらにはそのノウハウを活かした法人向けコンサルティング事業への発展と事業を発展させている。

今後の事業の肝として、一つの事業領域に徹底的に特化する。顧客基盤は直接自社で管理してデータベースを活用した事業にする。つまりビックハイアにフォーカスするのではなく、常にリトルハイアに目を向け、商品提供をゴールではなく、スタートと捉え、顧客との障害の関係構築の中で事業を展開するのだ。新規事業の取組においても、全くの飛び地を目指すのではなく、顧客基盤や特定分野で培ったノウハウを活用して徐々に領域を広げた事業モデルを開発するのだ。ハルメクの取組は、近年の事業開発の参考になると思う。



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