新規事業の旅 エアラインの業界構造

2024年10月16日 水曜日

早嶋です。約9200文字。

国内は、JALとANAに代表されるナショナルフラッグが2社。後は中堅のスターフライヤー、ソラシドエア、スカイマークとLCCを含めると10社程度の航空会社があり、貨物航空やチャーター会社を含めると更に増える。世界に目を向けると、数千社の航空会社が存在するとされる。航空業界のデータベースを参照すると、定期的に運航している航空会社はおおよそ1,500社程度とされているが、小規模な地域航空会社や貨物専業の航空会社も含む。航空会社は非常に多様で、国際的な大手キャリアから、小規模で国内や地域を拠点にする航空会社まで様々な規模の会社が存在する。そのような中、国内の中堅航空会社とLCCが今後どのような勝ち筋を考え動くべきか考察した。

(ナショナルフラッグキャリア)
JALやANAのようなフラグシップキャリア、ナショナルブランドのエアラインと呼ばれる大手航空会社は、各国においてその国を代表する航空会社として位置づけられる。通常は国際線も運航し、広範な路線ネットワークを持つ企業だ。世界には、この規模の会社が50から60社程度存在する。代表的な航空会社は以下だ。

アジア: 中国南方航空、中国東方航空、キャセイパシフィック航空(香港)、シンガポール航空、韓国の大韓航空、タイ航空など。
北米: アメリカン航空、デルタ航空、ユナイテッド航空、カナダのエア・カナダなど。
ヨーロッパ: ブリティッシュ・エアウェイズ、エールフランス、ルフトハンザ航空、KLM(オランダ)、イベリア航空(スペイン)など。
中東: エミレーツ航空、カタール航空、エティハド航空など。
オセアニア: カンタス航空(オーストラリア)、ニュージーランド航空など。

それぞれの航空会社は、国際的な航空アライアンス(ワンワールド、スターアライアンス、スカイチームなど)に加盟し、世界的なネットワークを持つ。ナショナルキャリアは通常、広範な運航ネットワークと大型機材を使用し、政府との関係も強いのが特徴だ。一方で、近年のコントロールが難しい外的要因によってナショナルキャリアの経営も安定していない。また、思想が異なるローコストキャリア(LCC)の台頭により価格に敏感な客層を奪われる現象も出てきた。そうなると、ナショナルキャリアはLCCを取り込む動きを加速する。

(LCCを取り入れる理由)
ナショナルキャリアがLCCを取り込む理由は様々にある。まずは顧客セグメントの拡張だ。従来のフルサービスのビジネスモデルでは対応しにくい、価格に敏感な顧客層を取り込むのだ。コスト構造の最適化もある。LCCは通常、より効率的な運航モデルを持ち、運航コストが低いので競争力ある価格設定が可能だ。ナショナルキャリアとして高品質なサービスを維持しつつ、LCCの運営を通じてコストを削減し、収益性を高める魂胆だ。もちろん防衛の意味もあると思う。LCCは、国内や国際線において大きな競争力を持ち始めている。ナショナルキャリアも自社でLCCを展開することで、他社のLCCから顧客を奪われるリスクを低減し、グループ収益を守ろうと考えるのだ。更には、振興市場への足がかりもあるだろう。LCCは短距離路線や二次都市、リゾート地などで強みを持ち、新しい市場へ参入するための柔軟な手段となりうるのだ。これにより、ナショナルキャリアは伝統的な市場に加え、LCCを通じて新しい市場にも対応しようとしている。競争環境が厳しくなる中でも、ナショナルキャリアも従来のビジネスモデルだけでなく、LCCのような柔軟な手法を取り入れることで、持続的な成長と競争力の維持を目指しているのだ。

フルサービスキャリア(ナショナルフラッグ)の収益性は、コストが高いため、通常は営業利益で3%から5%程度とされる。フルサービスキャリアは、燃料費や人件費、機材の維持管理など、さまざまなコストがかさみ利益率は比較的低めだ。一方、LCCはコスト効率が高いことから、5%から8%の営業利益率を持つことが一般的で、場合によってはそれ以上の利益率を達成することもある。LCCは運航効率を重視し、サービスを必要最小限に抑えることで、フルサービスキャリアに比べて高い利益率を実現している。

フルサービスキャリアのコストの詳細をみてみよう。まずは高い運行コストだ。 フルサービスを提供するため、燃料費、人件費、機材(航空機)購入・維持費用、インフラ(ラウンジ、空港施設)などが高額になる。特に労働力コストやサービス水準が高いことが、ローコストキャリア(LCC)に比べてコスト競争力を低下させる一因になる。

かといってプレミアム市場は無視したくない。ビジネスクラスやファーストクラスを含む高価格帯の座席が、収益の大きな部分を占めるからだ。特に、国際長距離路線ではこうした座席が大きな利益を生み出す。企業が従業員のためにビジネスクラスを購入し、快適な移動をしてもらう代わりに収益を挙げてもらおうと、互いにWinWinの関係を持っているから、航空会社の収益にも大きく貢献するのだ。

更に、多くのナショナルキャリアは、旅客便に加えて貨物事業も行っている。これも重要な収益源だ。特に、国際貿易が盛んな時期やパンデミック時のように航空貨物の需要が高まった場合は、リスクヘッジにもなり、収益のポートフォリオを持つ目的でも重要だ。

各国を代表するナショナルフラッグでも、世界を相手にすると規模で及ばない。そこでコードシェアやアライアンスをフル活用している。グローバル航空アライアンス(ワンワールド、スターアライアンスなど)のメンバーとして、相互のコードシェア便などで効率的にネットワークを拡張し、収益機会を広げるのだ。

ただ、これだけ行っても近年の競争環境で生き残りをかけるためにもLCCを傘下に入れる取り組みも行っている。ナショナルフラッグがLCCを導入する考えは、一見共食い(カニバライゼーション)も考えられるが、合理性もあるのだ。LCCは通常、価格に敏感な顧客や短距離路線の利用者をターゲットにしている。一方、ナショナルキャリアのフルサービスは、ビジネスクラスや長距離国際線など、サービスに対してより高い価格を支払う顧客にフォーカスしている。このため、ターゲット顧客が異なることから、LCCとフルサービス部門の競合はある程度限定的と考えられる。更に、ナショナルキャリアは、短距離や低収益の路線をLCCに任せ、効率化を図ることができる。結果、コストの低いLCCが運航できるため、全体の収益性を高める可能性があるのだ。ANAやJALが国内線やリゾート路線でLCCを活用しているのもこの一例だが、JALやANAが行っているLCCはその割り切りが中途半端なので、顧客からするとお得で、企業からすると煮えきれない状況のように思う。

LCCは通常、ナショナルキャリアから独立した運営を行い、コスト構造や価格設定を大幅に違えることで競争を避けている。たとえば、ピーチやジェットスターはANAやJALの傘下だが、独立した経営戦略を持ち、同じ路線で直接競争することを避ける工夫をしている。そう考えると、LCCは低コストで運航できるため、少なくとも価格敏感な市場では利益率を上げることができるのだ。ナショナルキャリアの収益が国際線やプレミアムサービスに依存しすぎている場合、LCCは収益源を多様化し、安定性を高めるための手段となりうるのだ。

整理すると、カニバらさせないためには、サービスの明確化、路線と価格の差別化、価格に敏感な層へのアプローチが肝になりそうだ。ナショナルキャリアは、サービス品質や付加価値(快適な座席、上質な機内サービス、ラウンジアクセスなど)を強調し、LCCとは異なるプレミアム体験を提供することだ。そして、重要な国際路線やビジネス客が多い路線はナショナルキャリアが維持し、観光地やレジャー目的の利用が多い路線をLCCに委ねることで、両者の市場を区別する。更に、LCCの顧客は通常、価格重視であり、フルサービスの顧客とは異なるため、共食いリスクは限定的だが、同じ航空グループ内で価格重視層を獲得できることは全体の競争力を強化できるのだ。

(世界のナショナルフラッグキャリア)
再び、フルサービスの事業に話を戻そう。日本で生活しているとJALやANA以外のキャリアを見ることが無い。しかし世界のトップ企業はでかいのだ。収益をあげているフルサービスキャリアは規模の経済を謳歌しているのが観察できる。中でも、アメリカのデルタ航空やアメリカン航空、ユナイテッド航空などの米国系航空会社が代表的だ。これらの航空会社は、大規模な国内市場に加えて国際路線も多く運航しており、特にアメリカの巨大な経済圏を背景に強力な収益基盤を持つ。特にデルタ航空は、近年、業界で高い収益性と安定した業績を示しており、収益性の面で非常に成功している。デルタ航空の強みは、次のようなことが考えられる。

まずは広範囲な路線ネットワークだ。米国国内外に多数の路線を展開し、ビジネス・レジャーともに幅広い顧客層にサービスを提供している。次にプレミアムサービスとラウンジだ。高収益のビジネスクラス、ファーストクラスを運営し、プレミアム顧客に対する高品質なサービスも特徴だ。そして運行効率の高さも忘れてはいけない。日々、運航効率の改善やコスト削減に力を入れ、利益率を高めている。更に、グローバルなアライアンス(スカイチーム)に所属し、提携による収益拡大が可能な状況を生み出しているのだ。

他にも、欧州ではルフトハンザ航空やブリティッシュ・エアウェイズが高い収益性を誇り、中東ではエミレーツ航空やカタール航空が国際線を中心に高い利益を上げている。フルサービスキャリアの上位5位の実態を整理してみた。これらの航空会社はそれぞれ大規模な運航ネットワークと多くの飛行機を保有しており、プレミアム顧客層や長距離国際線の需要に対応している。また、LCCとの競争にも対応しながら、依然として高い収益を維持しているのだ。

デルタ航空
収益:は、約490億ドル(2023年)。飛行機数が約950機。運航数は、毎日約4,000便、路線数は300以上、そしてパイロット数が約14,000人。

アメリカン航空
収益は、約470億ドル(2023年)。飛行機数が約935機。運航数は、毎日4,700便以上、路線数は 350以上、パイロット数が約15,000人 。

ユナイテッド航空
収益は、約440億ドル(2023年)。行機数が約860機。運航数は、毎日約4,100便、路線数は340以上、パイロット数が約13,000人。

エミレーツ航空
収益は、約270億ドル(2023年)。飛行機数が約260機。運航数は、毎日約3,600便、路線数は157以上、パイロット数が約4,000人。

ルフトハンザ航空
収益は、約270億ドル(2023年)。飛行機数が約710機。運航数は、毎日約3,000便、路線数は220以上、パイロット数が約10,000人。

同様に、JALとANAを同じ数値で比較してみよう。両社とも日本のナショナルキャリアとして、国際線と国内線の広範なネットワークを持ち、それぞれ独自の戦略で収益を高めているが、規模が明らかに違うのだ。

JAL
収益は、1兆3,750億円(2023年度)。飛行機数が約227機。路線は約376都市(国内外合わせて)、パイロット数が約3,000人。運航数は主要路線で毎日2,000便以上。

ANA
収益は、約1兆7,070億円(2023年度)。飛行機数が約290機。路線数は国内外に約130の目的地で、パイロット数が約3,500人。運航数は毎日約2,500便以上。

航空業界におけるナショナルフラッグキャリアの戦いは、規模の経済が大きな勝因となっていることがわかる。規模が大きければ、運航の効率化やコスト削減、路線網の拡大、顧客基盤の拡大が可能で、これが収益性に直結する。特に、航空会社は飛行機やインフラの維持に莫大な費用がかかるため、大規模に展開する企業はコストを分散できる点で有利だ。更に、今後の業界の動向として、淘汰やアライアンスの加速が予測される。航空業界ではすでに、経済の不確実性や燃料費の変動、LCCの台頭などの要因で、ナショナルフラッグキャリア同士の競争が激化している。そのため、より多くの航空会社がアライアンスに加盟し、コードシェアなどでリソースを共有し、グローバルなサービスを効率化している。

スカイチーム、スターアライアンス、ワンワールドといった主要な航空アライアンスは、航空会社間の連携を強化するための重要な手段となっており、共同での運航やシステムの統合により、コスト削減や乗り継ぎの利便性を向上させている。特にパンデミック以降、経営が厳しくなった航空会社の間で、合併や統合の動きも見られている。現在、世界には60社程度のナショナルフラッグキャリアが存在するが、規模が小さい企業や収益性が低い企業は、大手キャリアやアライアンスに吸収されるか、競争力を失って淘汰される可能性がある。市場動向次第では、アライアンスの統合や新たなパートナーシップの形成がさらに進むと考えられるのだ。

(LCC:ローコストキャリア)
ここで再びLCCに話題を戻そう。ローコストキャリア(LCC)は、ナショナルフラッグキャリアが収益を出しにくい路線や顧客層に焦点を当てて成功している。LCCは、主に短距離・中距離路線で価格に敏感な顧客層をターゲットにし、従来の航空会社が提供できない低価格と効率性を武器に、様々な工夫で利益率を高めている。

まずは運行コストそのものの削減だ。LCCは、簡素化されたサービスを提供し、効率の良い運航スケジュールを組むことで、ナショナルフラッグキャリアよりも大幅に低いコストで運営している。機内食やラウンジのような追加サービスを有料にし、利用者が選べる形にしているのだ。また、短距離や中距離路線の集中もポイントだ。ナショナルフラッグキャリアにとって収益性が低いかもしれない短距離路線でも、LCCはコスト効率が良いため利益を上げやすいのだ。たとえば、地域間の観光需要が高い都市に積極的に就航することで利益を生み出している。機材の運用にも工夫がある。多くのLCCは、特定の機材(例えばエアバスA320やボーイング737など)に統一することで、整備や訓練コストを削減している。これにより、ナショナルフラッグキャリアよりも安定したコスト構造が実現するのだ。そして、主要ハブ空港を回避する。一見、逆説的だが、大規模なナショナルフラッグキャリアが使用する混雑した主要ハブ空港を避け、二次都市や小規模な空港に就航することで、空港使用料や着陸料などのコストを削減しているのだ。これも利益率を高める要因となる。

LCCは、ナショナルフラッグキャリアが採算を取るのが難しい地方路線や、観光地間の低価格需要に対応しており、これによりナショナルキャリアと競争ではなく補完関係を形成しているのだ。ナショナルキャリアはプレミアムサービスや長距離国際線に注力し、ビジネス客や高価格帯の利用者層をターゲットにする。従い、LCCとナショナルフラッグキャリアは、それぞれ異なる顧客層や路線で収益を上げる戦略を採り、業界全体の多様化と競争力の維持に寄与しているのだ。

しかし、この景色はパンデミック前後で大きく変わったと思う。コロナの3年間、航空機業界は多大なるダメージを受け、運行するスタッフや、機材に関わる人々が一度その仕事から離れざるを得ない状況に陥った。そして3年後に再び元のエコシステムに戻るかと言えば、現実はまだ厳しい状況だ。現在LCCを含む航空業界全体では、機材の調達やパイロットの不足が深刻な課題となっているのだ。コロナを含めて、いくつもの要因が絡んでおり、LCCにとっても拡大の足かせとなっている。

まずは、機材そのものの調達が困難になっている。ボーイングやエアバスといった主要な航空機メーカーが、供給チェーンの問題や技術的不具合で生産に遅れを生じさせている。例えば、ボーイングは737 MAXの不具合が影響し、納期が遅れている。また、エアバスもA320シリーズの需要が非常に高く、製造ペースが追いつかない状態だ。新造機の遅延は、中古市場の供給不足にも連鎖する。調達を中古機市場に頼れば、従来よりも需要が急増するため、中古機材の供給も追いつかず、価格が高騰しているのだ。特にLCCはコストを抑えるために中古機材を活用することが多かったので、この市場の逼迫が問題を引き起こしていることになる。

次に、パイロットも取り合いが始まっている。パンデミック後の航空需要の急回復により、パイロットの不足が顕著になっているのだ。LCCはコスト効率を重視する。しかし急速な路線拡大に伴うパイロットの確保が難しく計画通り進まないのだ。パイロットの育成には時間がかかる。世界中で航空会社が限られた数のパイロットを同時期に一気に争う結果となっている。特にLCCは大手ナショナルキャリアとの競争で厳しい状況に直面しているのだ。給与や待遇面でも競争が激化し、パイロットの確保にコスト高になれば、LCCの経営に負担がかかることも簡単に想像ができるだろう。

飛行機は自動車のように製造におけるサプライチェーンが複雑だ。一連のパンデミックで供給網が一度崩れてしまったので、それを復帰するにも非常に大変な労力がかかっているのだ。そして航空機の部品供給や製造工程における供給チェーンの混乱は、航空機メーカーの生産に直接的に影響を与えている。特にエンジンや電子機器の供給が不安定で、全体の製造ペースが遅れてるという。これがLCCの新規参入や既存路線の拡張計画に影響を及ぼしているのだ。

どの課題も業界構造全体の課題だ。従い、一企業の努力で短期的に解決することは難しい。LCCは戦略的に中古機材の確保やパイロットの採用強化を行う必要があるのだ。また、一部のLCCは運航を縮小し、既存路線に重点を置くことで経営の安定を図っている。ただ長期的には航空機メーカーの生産能力の回復やパイロット訓練の強化が進むことが期待され、それまでの間に、激化する競争の中で生存しなければ次のオプションが選択出来ないのだ。

(日本特有の制約条件)
最後に、日本のLCCに注目してみよう。日本の航空業界、特にLCCの市場は独自の特徴がある。良く日本はガラパゴス化した戦いだ、と形容されるように、日本の航空業界の戦いもユニークだ。その結果、国内のLCCや中堅航空会社のスターフライヤーやスカイマーク、ソラシドエアなどに取って特有の課題やチャンスが生まれてくるのだ。

日本では、主要幹線(東京-大阪、東京-福岡など)の移動手段として、新幹線が強力な競争相手になっている。新幹線は利便性が高く、ドアからドアの移動時間を考えると、空港でのセキュリティチェックや待ち時間が必要な飛行機よりも早く、かつ快適な移動手段として多くの人に選ばれている。東京-大阪間では新幹線が圧倒的に支持されている理由は明確だ。そのためLCCは幹線ではなく、リゾート地や観光地、あるいは新幹線がない地方都市との連携に力を入れている。これがLCCにとっての勝ち筋の一つになるが、地方空港や短距離路線は市場が限定される。その結果、持続的な成長が難しい点もあるのだ。

日本の主要ハブ空港(羽田、成田、関西、福岡など)からの路線はすでに競争が激化している。ナショナルフラッグキャリア(JAL、ANA)とその子会社のLCC(ピーチ、ZIPAIRなど)が中心となり、限られた顧客層を取り合っているからだ。これに対して、国内の距離が短い地方路線での航空便は、鉄道や自動車でのアクセスが充実しており、航空便の必要性があまり高くない場合もあるのだ。結果、LCCは大手ナショナルキャリアの強い拠点(羽田や関空)を使用する傾向が強く、差別化が更に難しい状態を自ら選択してしまっている。これが、日本国内でのLCCの成長を制限している要因の一つと考える。

LCCとナショナルフラッグキャリアに加えて、日本は中堅航空会社の存在がある。スカイマークやソラシドエア、スターフライヤーは、LCCともフルサービスキャリアとも異なる中間的な立場を取る。彼らの強みは、特定の地域(ソラシドエアは九州、スターフライヤーは北九州など)での地域密着型のサービスや、ナショナルキャリアよりも割安な運賃でありながら、一定の快適性やサービスを提供することで顧客を獲得している点だ。しかし、これらの中堅航空会社は、LCCの低価格戦略とナショナルキャリアのネットワーク力との間で板挟みになっている状況も事実だ。特に、新たに参入するLCCとの価格競争に対しては、コスト構造がLCCほど効率的でないため、価格競争に弱い課題があるのだ。

(勝ち筋)
総合的に考えると、それぞれの勝ち筋は整理される。LCCの勝ち筋は、観光地やリゾート地への路線の強化だ。新幹線がカバーしていない路線、訪日観光客の増加を見越した国際線を拡大することで、市場のニッチを狙うのだ。また、成田や関空といったメガハブ以外の空港を積極的に活用し、コストを抑えつつ運航する戦略も有効だ。そして、中堅航空会社の勝ち筋は、地域密着型のサービスと顧客との関係を強化することだ。彼らは、都市間移動や地域振興において重要な役割を果たしており、特定の地域でのプレゼンスを高めることで、大手航空会社やLCCとの差別化を図ることができる。また、ビジネス客に特化した利便性の高いサービスを提供する、特定のエリアを広域で捉え空港から目的地、空港周辺の観光需要のソリューションを提案するなど、一定の高価格帯顧客を取り込むことも有効だ。

今後、日本のLCC市場や中堅航空会社は、国内の市場規模が限られているため、成長には国際線の拡大や地域市場の深耕が重要になる。また、ナショナルキャリアとの提携や、より効率的な運航モデルの導入も検討することになるだろう。結論として、日本のLCCや中堅航空会社は、新幹線などの陸上交通やナショナルフラッグキャリアとの厳しい競争環境にあるが、地域密着型戦略やリゾート地への路線強化など、特定のニッチ市場での成功がまだ可能だと考える。ただ、継続的な成長には、新たなビジネスモデルの採用や、効率性の向上も求められるので簡単なゲームでないことは理解できる業界だ。



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