新規事業の旅138 LLCとKK

2024年9月9日 月曜日

早嶋です。

合同会社(LLC: Limited Liability Company)は、日本の会社法に基づいて設立される法人形態の一つだ。比較的新しい形式の会社になる。LLCは、アメリカのLLC(Limited Liability Company)をモデルにしているが、日本の仕組みに適応されている。

LLCは有限責任で、出資者(社員)は、出資した範囲内でのみ責任を負う。つまり、会社の責務に対して個人の財産が差し押さえられることはない。またLLCの特徴として、株式会社と比較すると運営の自由度が高いとされる。社員間で合意すれば柔軟な経営が可能なのだ。出資比率に関係なく利益配分を決めたり、業務執行権を特定の社員に集中させるなどだ。税制面では、法人税が課せられる。米国のように個人の所得税として課税されるパススルー課税ではなく、会社として法人税を支払う。LLCは株式を発行しないため、株式市場での取引や株主総会の開催などは必要ない。非公開の会社で、外部の出資者に対する説明責任も比較的軽いのが特徴だ。

LLCのメリットを整理する。まずは、設立コストが安いことだ。合同会社の設立費用は、株式会社に比べて低く抑えられる。定款認証が不要で、登録免許税も安価なのだ。次に柔軟な経営が取れることだ。合同会社は、社員間で合意があれば自由な経営が可能になることだ。そして意思決定の迅速さだ。株主総会などの形式的なプロセスが不要で、重要な決定も社員間で直接行えるため、迅速に対応ができる。

次に、デメリットを整理する。1つは信用だ。株式会社に比べて、合同会社は知名度がまだ低く、社会的信用力が劣ると言われる。特に取引先や金融機関との関係において、信頼性が低く見られることがある。ただ、出資者の企業がすでに信用を確立している企業であれば、この範囲ではない。大きいのは、資金調達がしにくいことだ。株式会社のように株式を発行して資金を調達することができない。そのため、外部からの資金調達が難しく、事業拡大の際に制約が生じる可能性がある。逆に、出資者が一定の資本を持っていれば、この点もクリアできる。合同会社でも金融機関からの融資による調達は可能だ。ただ信用によっては、代表社員の個人信用や主要な出資者と金融機関の関係などが大切になってくる。最後はデメリットといえば疑問になるかもしれないが、パススルー課税が活用できないことだ。日本の合同会社は、法人税を支払う必要がある。簡単に事業を始める形式として合同会社を選んだ場合、個人事業主やパートナーシップよりも税負担が高くなる場合があるのだ。

合同会社は、比較的少ないコストで設立でき、柔軟で効率的な経営が可能な法人形態だ。しかし、資金調達や社会的信用力の面で制約がある場合がある。企業の成長や外部資金の活用を考える場合は、株式会社との比較検討も必要になる。

合同会社の出口について考えてみる。結論は、合同会社も株式会社と同様に売却可能だ。ただし、特有のプロセスや考慮する点がある。合同会社の出口は3パターンが考えられる。持ち分の譲渡、会社そのものの譲渡、そして吸収合併だ。

合同会社の出資者(社員)は、持分を持つ。この持分を第三者に譲渡することで、実質的に合同会社を売却することが可能だ。譲渡には他の社員の同意が必要な場合が多いが、定款で異なる取り決めがある場合がある。合同会社全体を他の法人や個人に譲渡することも可能だ。この場合、譲渡先が合同会社の全持分を取得し、会社の経営権を引き継ぐことになる。そして、合同会社が他の企業に吸収合併される形で売却されることもある。この場合、合同会社は消滅し、譲受企業にその資産や負債、事業が引き継がれる。株式会社のように、一部を切り出す事業譲渡も可能だ。合同会社が特定の事業を第三者に譲渡することで、部分的に会社の価値を売却することだ。これにより、主要な資産や事業を譲渡して会社を縮小させ、残りの事業を保持することも選択肢となる。

ちなみに、合同会社から株式会社に変更することも可能だ。これは組織変更と呼ばれる。組織変更をする際は、組織変更計画を作成する。株式会社に変更する際の基本方針や手続きを定めたものだ。計画には、新たな定款や、株式の発行方法、資本金の額などを含み検討する。組織変更計画は、合同会社の社員総会で承認される必要がある。通常、全員一致での承認が求められるが、定款で別途定めがある場合はその基準に従う。株式会社に移行するには、新たに株式会社の定款を作成する。ここで、株式の種類や議決権の設定、役員の選任などを決定する。そして、組織変更計画が承認された後、法務局で株式会社としての登記を行う。合同会社から株式会社に変更するための登録免許税が必要になる。その後、株式会社に移行した後、出資者に対して株式を発行し、それぞれの出資比率に応じた株式を割り当てる。これにより、出資額に応じた議決権が与えられる。

株式会社に移行することで、出資額に応じた議決権を設定でき、出資額が多い人がその分大きな影響力を持つことができる。また、株式を発行することで、将来的な資金調達が容易になる。この場合のデメリットは、手続きや費用だろう。また、株式会社は合同会社よりも通常の運営の手続きが複雑で公開義務などがあり、合同会社のメリットを失うことになる。

株式会社と合同会社はメリットとデメリットがそれぞれあり、企業の目的に応じた組織形態を選択することが正解だ。そのため、世の中には、株式会社から合同会社に変更する企業も、逆もあるのだ。

例えば、株式会社から合同会社に変更した事例だ。少し大きな企業を上げてみる。アップルジャパン合同会社は有名だ。かつてはアップルジャパン株式会社として日本で活動していたAppleの日本法人は、2009年に合同会社に組織変更した。今は、合同会社として運営さている。この変更は、アップルがより簡素な組織構造で柔軟な経営を行うことを目的としたとされる。アマゾンジャパンも同様だ。アマゾンの日本法人も、かつてはアマゾンジャパン株式会社として運営されいた。それが、2016年にアマゾンジャパン合同会社に組織変更したした。この変更も、より柔軟な経営と税務上のメリットを考慮した結果だと考えられる。ソフトバンクグループの中核企業のソフトバンクテレコム株式会社も、後にソフトバンクテレコム合同会社に組織変更している。その後、再び株式会社に戻るなど、経営戦略に応じて柔軟に組織形態を変更している事例だ。

上記3事例からもわかるように、大手企業が経営の効率化や柔軟性を求めて、株式会社から合同会社に組織変更するケースがある。ただし、合同会社に変更した後でも、その企業の経営方針や市場での立ち位置が大きく変わるわけではなく、主に内部の運営体制や税務上の理由で行われることが多いと考える。

今度は、合同会社から株式会社に変更した事例をみてみよう。LINE株式会社は、もともとNHN Japan合同会社として設立され、その後LINE株式会社に組織変更している。LINEのサービスが急速に拡大し、成長したことで、株式を発行しての資金調達や企業価値の向上を目指して株式会社に変更したのだ。メルカリも、もともとメルカリ合同会社として設立され、後に株式会社メルカリに変更された。この変更は、メルカリが資金調達や上場を視野に入れての決断で、スタートアップから急成長を遂げた同社にとって、株式会社としての運営が適していたのだ。DeNAは、最初、有限責任中間法人という形態で設立された。その後、有限責任事業組合(LLP)を経て、株式会社ディー・エヌ・エーに組織変更された。成長に伴い、株式会社にすることで資本市場からの資金調達を容易にし、企業価値を最大化するための戦略だった。最後に、ビズリーチだ。最初は、合同会社ビズリーチとして設立された。後に株式会社ビズリーチに組織変更している。同社の成長に伴い、資金調達の必要性や、上場を目指すために株式会社としての形態が望ましいと判断されたことが理由だ。

これらの企業は、合同会社としての柔軟性や簡便さを活かしつつ、成長段階で資金調達や上場などを見据えた株式会社への移行を行っている。特に、スタートアップ企業が初期段階で合同会社を選び、成長に伴って株式会社へ移行するケースが多いのだ。

合同会社と株式会社は、運営、資金調達、税制においてメリットとデメリットが背反し、企業の目的や状況に応じて選択することが正解になる。運営面は、合同会社は柔軟性が高い。簡素な運営が可能だが社会的信用が低い傾向がある。一方、株式会社は厳格な運営が求められ、社会的信用も高い。資金調達は、合同会社は出資者間の合意で柔軟な資金調達が可能だが、外部からの大規模な資金調達が難しい。株式会社は株式を発行できるため、資金調達の選択肢が広がる。日本では、パススルー課税などの適用がないので、大きな違いはない。ただ、アマゾンやアップルなどのグローバルで活躍する企業においては何らかの違いがあったから検討していると考えることができる。

一般的に、合同会社は小規模ビジネスやスタートアップに適しており、株式会社は大規模な資金調達や事業拡大を目指す場合に適しているといえる。

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