早嶋です。
経営者やトップマネジメントは、自分たちの部下や社員に対して「視野が狭い、視点が低い」などと口にする。しかし、その根本は日常の自分たちのマネジメントが作り出した結果であることを理解すべきだ。
戦略の教科書の始めの項には、大抵ミッションとビジョンと事業計画の関係が記されている。戦略立案の際に、ミッションを確認し、その達成に向けたビジョンを整理することと。ミッションは企業の中で普遍であり、抽象度は高いが社会的な使命や企業の存在意義を示す。ビジョンは、その達成の経過地点を示すもので3年から5年先、あるいは100周年や2030年など、切りの良い時間軸で、定量的な目標を示すことが多い。売上や利益、事業ごとの内訳やシェアなどだ。
そしてビジョンを達成するために事業計画や中期経営計画を練り込み、この計画を基に事業年度の行動を規定していくのだ。
が、「視野が狭い社員が多い!」とボヤキが聞こえる企業になればなるほど、トップマネジメントや一部の管理職しか事業計画の中身を知らない。中間管理職以下社員は、事業計画を理解せずに、従来の延長で仕事に取り組んでいるのだ。
そして管理職が実は経営計画の理解不足であったり、戦略の理解ができておらず、結果部下に対してコミュニケーションが取れていない場合もあるのだ。自分が理解していないから部下や現場にも伝えることができないのだ。また、「伝えている!」という場合も、実際は経営計画などのダイジェスト版を掲示しただけとか、回覧板で回したなど、間接的なコミュニケーションに頼り、しかも部下の理解度を確認することもしないのだ。
視野を広く、視点を高くするためには、限られた仕事の流れ、つまりバリューチェーンの一部の仕事に邁進する社員に対して時折、教育が必要だ。OJTやOFFJTを活用し、自分たちの事業モデルがどのような背景で成り立ち、自分たちの部署が、全体のビジネスモデルの中のどの部分を担っているかを定期的に共有するのだ。社員がおのずから会社の全体像を知る行動に出るなど稀なのだから。
時間軸に対しても同様だ。社員は評価が四半期毎のノルマの達成など、短いスパンに限定されていることが多い。そのためマネジメントは、期のはじめや節目節目に、会社が見ているビジョンを達成した状況を社員に自分の言葉で語りかけることが大切だ。実際に、具体的なイメージは社員の想像力を掻き立てることになるし、イメージが明確であれば、現状と比較した場合の問題も明らかになって来る。
そして管理職の役割は、まさに将来を創ることだと意識しなければならない。過去の仕事をするのではなく、将来の在りたい姿に近づくための行動を取り、時折社員を巻き込むことに意味があるのだ。
このようなトップの基で数年育った社員は、自ずと全社、少なくとも事業部全体のことを考えた上で、今の任務をこなす視点になるのだ。しかも短期的な成果に加えて、常に事業計画で示された年度や少し先の将来の事業を捉える考えも持つようになる。
起業して間もない頃、ソフトバンクアカデミーで戦略の講師を務めていた。当時の孫さんは100年先を当たり前に見ていた。そのため勉強会に参加していた部長職は30年先を普通に語り、課長職は10年と時間軸が短くなるものの、他の企業と比較した場合の時間軸の長さは歴然だった。上述した考えを当時から体現していたのだ。
マネジメントが自分の部下や仲間に対して視野を広げ、視点を上げるコミュニケーションや教育なしに、「視野が狭い、視点が低い」というのは、自分自身に責任があると言わざるを得ないと理解できただろう。
(過去の記事)
過去の「新規事業の旅」はこちらをクリックして参照ください。
(著書の購入)
「コンサルの思考技術」
「実践『ジョブ理論』」
「M&A実務のプロセスとポイント」