新規事業の旅42 グループ企業の試練

2023年4月3日 月曜日

早嶋です。

企業規模が大きくなるとグループ企業の数も比例して大きくなる。多くのグループ企業は既存事業の流れから分社化され、周辺事業を手伝う目的で設立されている。そのため本店の事業ポートフォリオの影響を大いに受ける立場にある。

90年代から2000年代頃は、本店からほぼ100%の売上を得てきた。グループ企業は年度末に本店からの次年度の予算が確定され、事業年度の1年間は正しく予算を執行することで利益を得てきた。本店からの売上がベース故、営業部は存在するが、実質本店からの天下り人事で部長を固め、確実に業務フローを回す流れが定着した。従い、営業力は基本的に無い、もしくは著しく低いのだ。

グループ企業の役割は、本店からの営業オーダーを決められた予算でこなし、決められた利益を出すことだ。もし創意工夫してコストをカットしても次年度の予算を本店から絞られることになるので、ある意味公務員のように工夫もしないでただこなす文化が定着する。仮に、予定よりもコストが掛かりそうな場合は、本店に相談をして追加の予算が計上できるので、予実管理も他の企業と比較するとズブズブだ。というよりもその発想すら乏しい。

2010年頃より景色が変わる。本店のキャッシュカウに相当する事業が衰退しはじめ、経営状況が低迷したのだ。当然、グループ企業の売上も低迷する。従い、グループ企業の利益も減少する。利益を確保する必要があるグループ企業は、新規事業を連呼するもスローガンに終わり、結局、創意工夫も無く、人件費を無理くり削減することでかろうじて利益を出す。結果、人材投資も縮小し、金の卵を産むガチョウの如く、将来のポテンシャルを潰してしまうのだ。

そんな時、突然、本店は自社の売上や利益目標を切りに良い数字にして、成長することを宣言する。そのしわ寄せは、グループ企業にもやってくる。結果、本店売上比率を100%から50%程度まで下げ、代わりに自分たちで営業を取りに行くシナリオが既定路線になる。しかし、法人営業部隊は、いわゆる民間企業への営業経験はなく、いつまで立っても新しい売上や新規事業が立ち上がらないで苦しむのだ。たまたまグループ企業のトップが何らかの繋がりで仕事を取る場合もあるが、戦略性が乏しいため思うような継続が出来なかったり、効率が悪い仕事が増えて、利益がますます出ない体制になってしまう。

民間企業のように、管理会計を導入して細かい仕事単位で利益と効率の追求などしていない。終了した案件を見直し、次の仕事にフィードフォワードする発想も無い。過去の仕事の資料は残っているものの、本店に報告することが目的の資料で、今後の効率化や新たな事業を創造する材料としてもほとんど役に立たない状態になってしまっている。

この状況を脱するためのウルトラCは存在しない。きっちりとこれまでの仕事を整理して、業務フローを整理する。各々が保管している資料やデータの交通整理を行いデータを一元化する。管理会計は経営を見直すためのツールと認識して、どこで利益が出ていないのかを細かく正しく把握して、仕事を進めながら検証する。民間企業では当たり前に行っている仕事の進め方をまずは半年から1年できっちり行うことができれば、無駄な仕事や作業、報告書の作成や営業など、様々な伸びしろが見えてくる。一足飛びにすすめることは難しいが、伸びしろは結構あるのだ。

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