新規事業の旅 その30 OEは最早役に立たない

2022年12月22日 木曜日

早嶋です。

日本全体の市場がまだ成長していた頃、欧米の企業をベンチマークし、同じような製品サービスを市場に出すために見様見真似で取り組んできた。そのため、経営者は戦略的なポジション(SP:Strategic Positioning)を明確にすることなく、模倣を繰り返しながら、現場の頑張りを踏まえて(OE:Operational Effectiveness)経営成績を上げてきた。そのため経営トップが企業の戦略を示さないままにやり過ごした感がある。

そして2010年頃より、日本が成熟期から衰退期を迎える頃、従来の方向を示さない経営がズタボロになってきた。上場企業は成長戦略を示すも、成長する方向性を見出す経営者が少なく、無機質な数字を増やすことのみ指し示した。例えば、300を500にするなどだ。しかし300を維持するのもやっとという状況下で不足する200をどうやって達成するのか、誰も具体的に示せない。

始めは既存の事業をすすめる中で200のギャプを埋めれると信じていたが、やがて不可能なことに気がつく。そこで今度は200のギャップを新規事業で埋めると宣言し始める。しかし従来、新たな枠組みで新規の事業を行った経験がある経営者はおらず、他探りで見様見真似で新規を行っても、成果が出ない。やがて2年、3年と経過した後、M&Aで新規事業をおこなえるかもということで、200のギャップを新規とM&Aで行う!という宣言が流行する。

しかし、相変わらずSPを示すことは無く、どのような分野にどのような新規事業を行うかの方針が不明なため、M&Aに対しての戦略もふわふわしたままになる。そして持ち込み案件を何度も吟味する中で、なぜか思い切って投資をするという行動にでる。当然、新規事業をM&Aする目的で行ったため、その事業のことを経営でいるマネジメントが自社にはおらず、M&Aには成功するがその後のシナジーを生むことが出来ないままでいる。

それでも経営トップは現場がなんとかするだろうと思ったのか、特にメスをいれることをしない。しかし流石に経験の浅い新規事業や異業種の事業はなんぼ頑張っても勘所がわからず、どうにもならない状態が続くのだ。本来は、新たな組織を明確に動かすためには、その企業のことがわかり、業界に明るい経営者が、方針を示して現場を動かす必要がある。仮に大きな方針を示すことが出来たとしても、現場がその方針を理解して、そのとおりに行動(OC:Organizational Capability)をしなければ成果は出ないのだ。

かくして現在、既存もガタガタで新規もガタガタの状態が続いている。

※SPとOEとOCの説明は、こちらを参照。

新規事業の旅(その31) ジョブと障害とキャズム
新規事業の旅(その30) OEは最早役に立たたない
新規事業の旅(その29) 売り手のトラブルは売り手の無知から
新規事業の旅(その28) 動画サブスクの落とし穴と処方箋
新規事業の旅(その27) 仲介会社のビジネスモデルと買い手の事情
新規事業の旅(その26) M&Aの勘所を押さえる
新規事業の旅(その25) キャズムを超えるまでのKPI
新規事業の旅(その24) 敵のコトを知りつくそう
新規事業の旅(その23) 道具の使い方
新規事業の旅(その22) 売ってから始まる事業
新規事業の旅(その21) 現場とトップのギャップ
新規事業の旅(その20) 自前主義の呪縛とイデオロギー
新規事業の旅(その19) モノからコトへ転身できない企業
新規事業の旅(その18) アンゾフ再び
新規事業の旅(その17) 既存事業の市場進出の場合
新規事業の旅(その16) キャズムを超える
新規事業の旅(その15) 偶然と必然
新規事業の旅(その14) 経営陣のチームビルディング
新規事業の旅(その13) ポジションに考える
新規事業の旅(その12) 山の登り方
新規事業の旅(その11) 未だメーカーと称す危険性
新規事業の旅(その10) NBとPB
新規事業の旅(その9) 採用
新規事業の旅(その8) 自分ごとか他人ごとか
新規事業の旅(その7) ビジネスモデルをトランスフォーメーションする
新規事業の旅(その6) 若手の教育
新規事業の旅(その5) M&Aの活用の落とし穴
新規事業の旅(その4) M&Aの成功
新規事業の旅(その3) よし!M&Aだ
新規事業の旅(その2) 既存と新規は別の生き物
新規事業の旅(その1) 旅のはじまり



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