◇差別化は理解されていない?
原田です。
「差別化」という言葉は、ビジネスの世界で当たり前に使われています。一方で、差別化について具体的に説明できる人は少ないです。経営陣は現場で働く人たちへ差別化を図れと、檄を飛ばします。しかし、具体的に何を、どうやるのか不明な場合がほとんどです。
具体的な差別化の論理は、マイケル・E・ポーターの「競争優位の戦略」に説かれています。しかし、この論理をきっちりと説明している解説本や、WEBの記事を読んだことがありません。ちなみに、翻訳本の「競争優位の戦略」を読んでもわからないと思います。僕も翻訳本を読みました…が、何度この日本語を読んでも意味がわかりませんでした。こんな日本語ははじめてでした。結局、原著と並行して読みました。それで、ようやくわかりました。
◇活動のつながり < バリューチェーン >
ここでは、架空のチーズタルト製造業をモデルに差別化の根本的な論理を説明します。この企業は、厳選材料、本格製法のこだわりタルトを製造しています。
まず、差別化を通常より高い価格で販売できることと、簡単に定義します。顧客は企業が提供する製品に価値を認め高い価格を支払います。
企業は、製品という形で顧客にとっての価値を作り出します。企業は様々な活動の集合体です。下図の通り、タルト製造業の活動は分類されます。ここでは直接価値をつくる主活動のみを取り上げます。
これらの活動のつながりを「バリューチェーン」と呼びます。各活動がそれぞれの役割を担い最終的な価値をつくります。
◇活動の連結
個々の活動は、図のように連結しています。一つの活動で実行したことが、他の活動のパフォーマンスを上げる(より多くの価値をつくる)、または、コストを下げることにつながります。
製造活動で、長時間低温で焼き上げることは、製品の味わいを高めるだけではありません。販売活動で、本格製法であることをプロモーション情報として活用できます。顧客が認識する価値が高まります。結果としてマーケティングのパフォーマンスが上がります。
入荷活動で、原材料をロット単位で区分して保管することで、製造活動の作業を削減し、効率を向上させます。結果としてコストが下がります。
このように一つの活動のやり方が、他の活動へ影響を与えます。これが連結関係です。
◇社会は価値をつくる活動の集合体
社会は、最終的な顧客(消費者)へ価値をつくるための活動の集合体です。社会では企業が、一般に下図のような役割を担っています。
その役割は、下図のように活動の集合体になっています。ここではチーズ生産者、タルト製造業、小売業、そして最終消費者のつながりを描いています。
この活動の集合体のなかで、差別化は、①製品の利用、②活動のつながりという2つの原理で実現されます。
◇①製品の利用
ここでは、チーズ生産者が、どのように差別化を実現するか説明します。チーズ生産者は、顧客であるタルト製造業のパフォーマンスを上げる、または、コストを下げることで、通常よりも高い価格(プレミアム価格)を手にすることができます。
まず、図のように、製品は顧客のバリューチェーンで利用されます。そして、顧客のパフォーマンスを上げる、またはコストを下げるように影響を与えます。
品質管理されたチーズは、タルト製造業の入荷活動の検査業務を簡素化します(コストを下げる)。また、製造活動における製品のクオリティーを強化します(パフォーマンスを上げる)。形状の定まったチーズを納品することで、製造活動の効率を上げることができます(コストを下げる)。脂肪含有率の高いチーズは、販売活動のプロモーションを強化します(パフォーマンスを上げる)。
◇②活動のつながり
企業が顧客のバリューチェーンへ、影響を与えるのは製品だけではありません。企業間の活動のつながりを通して、影響を与えることができます。チーズ生産者と、タルト製造業のバリューチェーンは図のようにつながっています。
チーズ生産者の配送活動における多頻度配送は、タルト製造業者の入荷活動の在庫量を減少させます(コストを下げる)。また、チーズ生産者の生産活動における生産情報の提供は、タルト製造業の販売活動における製品開発力を向上させます(パフォーマスを上げる)。
◇差別化とは
差別化とは、製品、活動のつながりを通じて、顧客のバリューチェーン全体へ影響を与えることです。影響を与えるとは、パフォーマンスを上げる、またはコストを下げることです。結果として顧客がプレミアム価格を支払うようになります。
パフォーマンスを上げるとは、ブランド、ステイタスなど、心理的な要因もあります。またバリューチェーンは、顧客が消費者の場合は、やや複雑になります。しかし、基本は同じです。
価値は、顧客が認識しなければ価格につながりません。価値は、企業が一方的につくるものではありません。顧客が認め、お金を払ってくれて、はじめて価値になります。実務では、顧客に価値を伝え、わかってもらうとことが難しいです。
◇差別化を実現するために
まず差別化の論理が必要です。論理がなければ、検証できず、改善できず、続きません。論理だけでなく、関わる人々の理解と創意工夫が必要です。この創意工夫を引き出すのは、働く人の知識です。そのためには面倒でもバリューチェーンの「見える化」と、共有が必要です。
しかし、現実で目にするのは、「差別化」という掛け声だけで、何の論理もないことです。よくあるのが、「お客様第一」という言葉だけしかないことです。
「お客様第一」で、みんなで頑張って「差別化」する。なので高い価格で販売できる。論理がこれで完結です。「差別化」したので、次に「ノルマ」を設定する。さあ、「みんなで頑張ろう!」と…。まあ、お客様からしたら迷惑ですね。社員のモチベーションも下がります。経済的に高度に成熟化した現代社会では、「気合」と「根性」だけで「差別化」は実現できません。
一方で、バリューチェーンを「見える化」すれば、無限の差別化のやり方が見えてきます。「見える化」すれば、働く人の創意工夫を引き出すことができます。社会が複雑になるほど、差別化のやり方は増えていきます。小さな企業に多くのチャンスが生まれます。
大企業でも、びっくりするくらいこの基礎ができていません。バリューチェーンを「見える化」することで、具体的な取り組みが定まり、収益力に大きな違いを与えます。お宝は現場に、そのプロセスにたくさん埋まっています。
◇バリューチェーン解説動画
バリューチェーンについて、より詳しくgritの動画で解説しています。バリューチェーンは、基本戦略策定、業務改善、多角化、組織構築など実務でとても使えます。しかし、その基本概念を働く人たちで理解する必要があります。ご視聴いただければ、バリューチェーンとは、とても当たり前のことですが、大事な概念だということがわかります。
以上、最後までご精読ありがとうございました。