創造的地域社会

2021年6月3日 木曜日

原です。

ここ数年、都市と地方を取り巻く環境や価値観が大きく変わりました。
社会や経済活動のグローバル化が進むのと同時に、人々の「心の豊かさ志向」は広がりを見せつつあります。
特に、東日本大震災以降、「コミュニティ」や「つながり」というキーワードが多く使われるようになりました。
また、現在のコロナ禍では、都市から地方や里山への移住や会社の移転の動きも一部で見られます。
戦後の日本経済成長と物の豊かさを追い求めてきた結果とは引き換えに、失いつつある心の豊かさを取り戻そうとする力が社会のあらゆる所で求められているようにも見えます。

日本は近代から現在に至るまで、人と地域の関係が大きく変化してきた国です。
戦後は地方から都市部への人口移動、雇用構造の変化が経済成長を後押ししてきました。
それに伴い、人々の社会への帰属意識が大きく変化してきました。経済成長と都市化のプロセスで、日本人の帰属意識は「会社や組織」という職域と「核家族」という生活域で過ごすことになり、ワークの場とライフの場に分離しました。
そして、それらをつなぐ場と言える地域やコミュニティの存在感は希薄になりました。
長年、日本人は働く場を自分自身の拠り所とし、自分がどの会社や組織に所属しているかが重要でした。
しかし、脱成長や脱工業化・脱炭素社会が共通認識となった現在、そうした帰属意識は揺らぎ始めています。
日本は経済成長を終え、終身雇用など日本的な働き方の時代も終わり、更には少子高齢化社会の問題が現実のものとなってきたからです。
定年まで働き、それ以降の余生をどう過ごすかが人生の大きな課題であり終活というキーワードも聞くようになりました。
職域から離れたところで、自らの心豊かさが高まる居場所を求める人々も見られますが、帰属意識が高い人ほど、その居場所を築いていくことはとても難しいと思います。

一方、私が実践している都市と里山での2拠点暮らしから学ぶべきことは多いです。
人口減少と超高齢化が進行する中で、過疎化していく中山間地域の里山では限られた地域資源を活かし、知恵と創意工夫で小さなビジネスや新たな価値観を持つ若者などによる社会的起業などの取組みも創出されています。
成熟社会での「あるべき姿」が求められている今日、従来の経済至上主義の価値観とは異なる新たな「創造的地域社会の価値」を再構築していく機会にもつながります。
そして、創造的地域社会への形成は、既存の地域共同体ではなく、ゆるやかなコミュニティが同時に創出しつつあります。
人口減少が進み、高齢化率が50%を超えるほどの超高齢化と過疎化の中、地方や里山の創造的な取組は、日本の未来の先進事例になると思います。
人口増加と経済成長の時代における日本社会のキーワードは「経済発展、工業化、都市化」でした。
しかし、人口減少と脱経済成長の時代は、「地域の自立、創造性、ゆるやかなコミュニティ」といった言葉をキーワードとして聞くようになりました。
つまり、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済システムに基づく工業化や産業化を超えた新たな経済システムが求められると考えます。その際に「創造性」は重要な思考スキルとなるでしょう。
例えば、大量生産=大量消費による「経済成長の限界」に突き当たった欧米の都市では、既に「欧州文化首都」事業など文化資本の活用や創造的人材の誘致による再生の試みが成功を創り出しており、日本においても、金沢市、横浜市、神戸市などでアーティストやデザイナーやクリエイター団体、企業、大学、住民の連携によって創造都市政策が推進されてきました。
このような、世界や日本における創造都市の推進の中で、国内の地域ではその考え方を応用して、創造地域を目指す地域イノベーションへの取組も創出されています。
今後の日本は、大都市が小都市や里山とwin-winの関係を構築することで、日本全体がより創造的に進むことが社会全体の新たな発展につながるのではないでしょうか。



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