早嶋です。
■デザイン思考とは
デザイン思考とは、デザイナーがデザインを行う際の思考プロセスを活用した思考方法です。不確かな時代、前例が無い問題や未知の問題に対して解決を図るために有用だと言われます。デザイン思考をビジネスの領域に広げた方はハーバート・アレクサンダー・サイモン(Herbert Alexander Simon)の「システムの科学」が始まりとされます。
”現在の状態をより好ましいものに変えるべく行為の道筋を考案するものは、誰でもデザイン活動をしている”
ハーバード・A・サイモン「システムの科学」より
■デザイン思考 3つの特徴
デザイン思考は3つの特徴があります。1つ目は、問題解決を行う際に重視する要素は対象とする顧客が本当に満足することに集中します。解決方法の正しさやベストの方法などではないということです。つまり、問いそのものが重要で、解決策に重きがあるものでは無いのです。
次に、問いを設定したあ後の流れについてです。基本的には正しい問題を設定する過程と、その後の解決策を導く過程は線形的な取り組みではありません。様々な視点とアイデアを繰り返し組み合わせた試行錯誤の結果である場合が一般的です。従って、一度出た問いや解を繰り返しくブラッシュアップすることが通常です。
そして最後に、デザイン思考では、前例や組織の固定概念やバイアスなどを全て排除して考えることが大切です。少なくとも、そのようなマインドセットを持って取り組むことが特徴です。
これまでのお話を整理すると、デザイン思考とは、顧客が最も解決したい問いを正しく定義し、その解決策を提供するプロセス及び考え方なのです。
■注目される背景
従来は、正しい問いがあることが前提でした。従って、問いを正しく定義することよりも、むしろその問いに対して早く正確に解決することが求められました。しかし、多様化した変化の激しい昨今は問題の本質、正しい問いそのものを捉えることが難しいケースが増えています。
これらはVUCA時代に表現される通りです。Volatility(変動)。変化の質、大きさやスピードなど正確に予測することが難しい時代。Uncertainty(不確実)。更に、これから何が起こるかも予測できません。Complexity(複雑)。そして、数多くの因果関係が複雑に絡み合っています。Ambiguity(曖昧)。物事の原因や関係性がそもそも不明瞭で、掴みにくい場合が多いです。
そして直近から今後にかけても、世界の経済環境が極めて予測困難な状況に向かっています。結果、企業の中でも顧客が抱える真の問題を捉えて、素早く分析して形にできる人材が求められるようになったのです。・その際に活用しやすい思考方法の一つにユーザーを中心に捉えたデザイン思考が注目されているのです。
■デザイン思考の効果
デザイン思考の最大の効果はイノベーションを創出することです。これまでの延長線上ではない、非線形的な全く視点の異なるアイデアが生まれやすくなる思考法です。デザイン思考では、顧客に寄り添って、顧客を中心とした問いを考えることをスタートとします。デザイン思考を実行するためにはチームを見直すことも重要です。チーム間のコミュニケーションが自由度高く遠慮なく行える場作りとその維持が大切です。思考のプロセスにおいてチーム全員が発言し、発言したアイデアの重要度も平等に取り扱う。役割や役職、年齢の上下など、一切捕らわれないチームでを作り、アイデアを出すというマインドがポイントです。
■デザイン思考のプロセス
基本、デザイン思考には5つのプロセスがあります。共感、問題提議、アイデア創造、試作、テストの5つです。そして、このプロセスは一方通行ではなく双方向に行いながら、各プロセスそのものを1回ではなく、複数回繰り返す過程で、顧客の正しい問いと解決策を導き出していきます。
①共感
顧客中心の考え方ゆえ、顧客を理解することからはじめます。そのための方法は対象顧客のことを調べ、次に実際に観察します。顧客がどのような行動を繰り返し、どのような思考をしているのかなど、顧客に共感を示しながら観察します。そして、気がついた点や気になる点を顧客にフィードバックしてインタビューを行います。この行動観察と実際のインタビューを通して顧客が気がついていない問いを発見します。
②問題提議
事前調査と観察とインタビューより、洞察を繰り返しながら、顧客の真の問について整理します。顧客がおかれている特定の状況から、顧客が実際に成し遂げたいと思っている状態を見出すことで、ギャップを発見します。この際に発生するギャップを問題として、正しい問いとして定義します。
③アイデア創造
問に対しての解決策を考えます。その問題を具体的に深堀りし、そもそも特定の状況から成し遂げたい姿に行けない理由などを様々な視点やアイデアで深堀りします。チームで議論を繰り返しながら、大量のアウトプットを出す過程で結果的に創造的なアイデアが持つことを理解します。
④プロトタイプ
沢山の量(アイデア)が出たら、次はその複数のアイデアを早い段階で実際に試してみます。その際に有用になるのがプロトタイプです。短時間で予算をかけずに、対象顧客がイメージできるプロトタイプを早い段階で作成して、テストを繰り返します。
⑤テスト
プロトタイプを実際の顧客に試し、様々なフィードバックを取り続けます。このフェーズで有用な情報を入手したら、再び上記のプロセスを共感から繰り返していきます。試行錯誤と実際の顧客インタビュー等を通じて最高の問いを見つけ出していくのです。そして、これまで成約や販売に目を向けていた視点を、購買や1回の顧客体験を通じて、生涯に渡り取り組むんだという視点を持ってテストマーケティングを繰り返します。
■よくある落とし穴(誤解)
で、結局なにが違うの?と思った読者は多かったのでは無いでしょうか。今まで行ってきたこと、これまでチームで取り組んだことと何ら変わらないという感想を持ったのでは無いでしょうか。以下4つに絞って、デザイン思考にありがちな誤解を説明します。
○顧客(ユーザー)中心の誤解
顧客を中心に考えることは、今や管理者に取って当たり前だと思います。だれでも意識して取り組んでいるでしょう。しかし顧客中心は、「顧客が言うことを聞いて、それを実現する」という単純な取り組みでありません。有名な事例で、ラインの発明をしたフォードは、顧客の声を聞いた時、「より早い馬が欲しい」という声を聞いて、今の自動車の土台を着想しました。
顧客中心というのは、ユーザーの声をそのまま形にすることではありません。その本質はなにかを理解して、それを形にすることを意味します。そのためにユーザに共感を示すプロセスが重要になるのです。そもそも顧客は自分が一体どのような状態を望んでいるかを正しく言語化できません。そのために企業が顧客のことをより深く理解して、顧客の考えていることを正しく言語化するお手伝いをすること、そしてその状況から本質的な問いを整理っすることこそ、顧客中心という概念なのです。
○デザイン思考の5つのプロセスの誤解
5つのプロセスを見ると、この通り行えば実現できるとついつい考えてしまうでしょう。しかし、最初の共感でいきなり壁にぶち当たります。デザイン思考におけるプロセスの重要性は、単に、このプロセス通り行うことではなく、このプロセスを意識して取り組むことにあります。
はじめは試行錯誤しながら、このプロセスを行き来するでしょうが、状況に応じて柔軟に対応することもあります。デザイン思考の原則を意識さえしていれば、実際、どんな取り組みを行っても構いません。プロセスを度外視して実行した場合、今行っていることがわからなくなります。そのときは、「5つのプロセスのうち、今はどこ?」と認識することで、デザイン思考のマインドセットに戻ることができるようになります。。
○手法ではなくマインドセットだと理解する
デザイン思考と聞くと、やはり手法と捉えることが多いと思います。しかし、実際はマインドセットそのものなのです。この理解を得ると、複数の参考図書や記事を呼んでもスーッと自分のなかに溶け込んでくると思います。
○今の世の中は正しい問いが大切
実は、解決策はどうにでもなります。これまでは問があることを前提に、正しい解決策を如何に早く正確に提供するかが勝負でした。しかしVUCAの時代は正しい問いがみつかりません。企業が行う差別化は、どの企業よりも顧客の問題解決における正しい問いを発見して、その問いを解決することで行います。
昔の言葉です。「目の付け所がシャープです。」これは解決策そのものを評価しているものではありません。目の付け所、つまり顧客本位の真の問を見つけたことがすばら良いのです。結局は、そのためのマインドセットがデザイン思考に表現されているのです。
参考図書
『デザイン思考が世界を変える』 早川書房、ティム・ブラウン著
『発想する会社!』早川書房、トム・ケリー著
『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』 クロス目で・パブリッシング、左宗邦威著
『クリエイティブ・マインドセット』 日経BP出版、デイビッド・ケリー、トム・ケリー著
『デザイン思考の教科書』 日経BP出版、アネミック・ファン・ブイエン、ヤープ・ダールハウゼン、イェル・ザイルストラ、ロース・ファンデル・スコール著