サイバーエージェントの経営者育成

2017年6月15日 木曜日

早嶋です。

サイバーエージェントの新規事業創出メカニズムは参考になります。戦略に人事を組み込み、事業とともに経営人材の育成を明確に目的としているからです。

近年、大手企業は成熟社会を乗り切るために、資本政策の一環で同業種、異業種に資本を入れ、シェア拡大や売上やノウハウの獲得を行っています。しかし、その場合、マジョリティを取ることが多く、マネジメントを送り込む必要があります。役員を入れ替えずに、そのまま経営を続けることも可能ですが、資本を入れた側の戦略を理解している人間が経営陣にいなければM&Aした企業とのシナジーは出しにくいでしょう。

しかし、実際の実務の現場を観察しているとM&Aで獲得することをゴールの如く振る舞う企業が多いことに気が付きます。基本合意を締結した後も、誰がその組織のマネジメントを行うか、役者が決まっていないのです。本来ならば戦略にもとづいてM&Aを行うため、検討段階でだれが社長を行うかをイメージしながら進めるものです。しかし企業にはもはや、他の企業のマネジメントが出来る余力人材が余っていないのです。

ここでサイバーエージェントの経営人材育成の取組を見て見ましょう。きっと試行錯誤の連続で現在もその仕組を改善しながら経営陣を育てているであろうと思わんばかりの凄い内容です。

基本の考えとして、サイバーエージェントは事業と人材を一緒に育てるフレームを作っています。その原則は3つあり、1)環境が人を育てる、2)決断の経験を増やす、3)セカンド・チャンスを提供する。です。

この考えを基に、社員から大量の事業提案を募集し、その提案の精査を社員を巻き込んで行います。重要な判断を社員に任せるのはまさに経験を与えて経営判断の練習をさせているのです。

サイバーエージェントは新規事業を加速させる取組を持っています。事業の評価やランク付け、撤退のルールを明確にすることです。そして、一度失敗して撤退を余儀なくされても全ての事業には2度めのチャンスを提供しています。

新規事業の創出には2つの大きな取組があります。あした会議とNABRA(ナブラ)という取組です。前者は役員がチームリーダーを務め社員とチームを組みます。そのチームが同社の「あした」をつくる新規ビジネスの構想や直近の課題解決について取り組む1泊2日の合宿を行うのです。あした会議は年に2回行われ、毎回複数の事業が立ち上がっています。面白いのは、提案した人は実行する人を別に選ぶこともできるという点です。ちなみにこれまで会議で設立された会社は30社弱あります。

もう一つのNABRAは社員による新規事業創出グループです。社内空の新規事業のアイデアに対して、役員ではなく社員で結成された投資委員会で決議されると事業として立ち上げられます。NABRAは10名のメンバーで構成され自分の事業が決議されたら、そのまま事業の立ち上げを行い、状況に応じて必要なメンバーが追加されます。

次に経営人材の育成についてみていきます。先ずは新卒社長の制度です。新卒でもサイバーエージェントでは子会社の社長を任せられることがあります。早い段階から社長の経験を積ませることで、一気に経営者としての素質を引き出すのです。入社1年目から社長に抜擢されるケースもあり、社長は子会社の予算の範囲内で自分の報酬額も決定します。

サイバーエージェントの取締役の人数は8名でCA8という呼称があります。CA8は原則2年に2名の入れ替えがあります。役員を意図的に交代することで経営人材を増やすことにつながり、会社組織を強くして事業の拡大につながるのです。

CA8名に加えて執行役員10名を合わせたのがCA18です。次世代リーダーから抜擢した10名に執行役員として経営の経験を積ませ、会社側としては経営の透明性を高くする目的も達成します。

CA18に加えて次世代リーダー18名を合わせたのがCA36です。若手社員や20代を中心に部署や年齢や役職に関係なく、選抜された18名は役員や経営陣が講師を務める研修制度に参加します。役員、執行役員、次世代リーダーを常に交流を行いながら、実際の意思決定の場に出させたOJTは、相当の経験を積む機会を与え、実践的な経営者を育てるプログラムになっているのです。

サイバーエージェントは、立ち上がった事業の成果を加速するための取組も実によく考えて行われています。それは子会社や事業をランク分けして、互いに切磋琢磨させ事業の立ち上がりを加速させる取組です。

事業のランクは大きく2つあり、スタートアップJJJとCAJJプログラムです。前者は設立2年以内で収益化が出来ていないスタートアップ事業を対象にしています。それぞれの時価総額を計算しながら「シード」「アーリー」「シリーズA」「上場前夜」とさながらベンチャーと同じような名称でランクを分けています。そして時価総額が30億円以上になると上場して上位のCAJJプログラムに昇格するのです。

CAJJプログラムは3つのランクがあります。J3、J2、J1です。J3は営業利益が黒字のステージです。J2は四半期の営業利益が1億円以上、J1は同じ営業利益が10億以上の事業です。営業利益を明確にしてランクを付け、事業成長を促します。更に、2四半期連続で減収減益になれば撤退、もしくは事業責任者の交代という撤退基準が明確に定められています。

付け焼き刃でM&Aをしても、付け焼き刃で人材育成をしても結局はうまくいかない。ということで全ては戦略にもとづいた取組というのが結局は時間がかかりますが、最も効果的に取組になるということでしょう。



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