早嶋です。
大企業は技術や人材獲得を目的に、ベンチャー企業の買収や出資を進めています。M&A助言会社レコフの資料によると、2016年の出資などを含めるM&Aは2012年と比較して件数ベースで6倍、金額ベースで3倍です(※1)。これらか1件あたりの金額は2012年と比較して半分になっていてることがわかります。2016年ベースはベンチャー企業1社あたりのM&Aの金額は2.95億円です。
多くの大企業は日本の経済縮小によって新しいビジネスの模索が課題に上がっています。しかし、1980年代に確立した事業が今でもその企業の収益の柱になっていて、新規事業を立ち上げる人材が経営陣を含めて少ないのが現状です。多くの社員が自分たちが入社した時期に既に既存のビジネスがあり、そのビジネスモデルを更に成長拡大することにこれまでの会社人生を注いできました。そこに新規ビジネスを立ち上げろと言ってもマインドや能力の面で限界があるのです。
この背景の中、全てを自前で行う発想から不足する部分は外部調達を行うという考え方が徐々に普及します。それがベンチャー企業にも視野が広がった背景です。現在の経営学では、外部技術を自社に取り入れ新製品や新規事業を行う手法をオープンイノベーションと言っています。
ベンチャー企業に対して出資もしくは買収することで自社の資本下におき、その企業が持つ技術と人材を活用して事業を展開します。企業としては時間とノウハウと人材を買う発想になります。一方、ベンチャー企業にとっては大企業のチャネルの活用や資本を活用して一気に成長を加速するエンジンを手に入れることになります。
買い手と売り手に取って非常に良いお話ですが、注意点もあります。例えば、平均売買金額が3億円程度であればその企業の利益は5千万円にも満たないと考えられます。すると売上規模にして5億前後と言ったところ。特色柄、技術と人材を確保する目的色が強ければ売上も利益もそれよりも更に下になるでしょう。
その場合、資本を入れる側の大企業の誰がその会社のマネジメントをするのかがポイントになります。そもそも大企業はその分野のノウハウや技術が明るくないから資本を入れるとすると、その規模の会社でもマネジメントできる人材がいないのです。また、大企業からするとそのベンチャー企業の売上や利益は少ないので誰でもマネジメントできるだろうと簡単に考えているかもしれません。実際5億前後の予算であれば課長クラスが担当しているからです。
しかし、その企業をベースに新規の展開を考えるのであればやはり相当のマネジメントを据えてコントロールすべきなのですが、その人材も企業にはいないという状態。そして最悪は資本は入れるけれども、ベンチャー企業に経営は丸投げで結果何もならずに、ベンチャー企業は資本を食いつぶして成果を出さないというシナリオもよく観察されます。
M&Aを行う場合、資本を入れる側は、その領域に詳しくてある程度組織をマネジメントする人材の確保ができることを踏まえて行わなければ結果的に損することになるのです。
※1M&A助言会社のレコフによると2016年の未上場企業の国内ベンチャー企業を対象とした出資を含めたM&Aは347件。金額ベースで1025億円。(1件あたりの平均2.95億円)
※2 日本経済新聞 「ベンチャー技術取り込み大企業のM&A急増4年で件数6倍自前主義、転換の動き」 2017年3月24日 記事参考