早嶋です。
「2016年第一四半期にパナマ運河の拡張工事が終わる。」去年の11月に都内でパナマ運河庁の長官が発言しています。そろそろ新運行ルートの活用が始まります。エネルギー問題が常に国の政策とリンクする日本にとっては、パナマ運河の拡張工事の目処が付くことは朗報ですね。
そもそもパナマ運河は何がポイントななのを整理してみました。世の中がグローバル化して瞬時に情報のやり取りが出来るようになっても、ものの動きは一定の成約条件があります。ビットの限界費用はゼロに近づきますが、アトムの移動は常に制約の対象です。小さいものであれば列車や飛行機がありますが、バルク単位、トン単位で容積が大きい物や重たいものはやはり船での流通が主になります。
パナマ運河が重要な地域は、北米東海岸とアジア・日本を繋ぐルートです。特に、この路線において日本が注目すべきはLNGです。東京ガスや商社などはこれまで、北米やヨーロッパ諸国と比較して割高なLNGを扱いざるを得ませんでひた。しかし北米からの割安なシューエルガスの輸入が日本にとって硬直したエネルギー構造に風を通すチャンスとなります。
全長約80kmのパナマ運河の特徴は、大西洋と太平洋を結ぶ物流の要でありながら、スエズ運河と違って航行できる船の大きさに制限がありました。そこで2007年から拡張工事が始まります。当初、2014年に完成予定でしたが、工期が遅れて今の時期になっています。
完成後のパナマ運河は、これまでのコンテナ船では2.6倍の容量が運べ、ばら積み船は2倍の重量の運行が出来るようになります。そしてLNG輸送船も新たに航行が出来るようになります。これまでLNG船と同等の規模の船が米国東海外から日本に行くためには喜望峰回りが主流でした。日数は45日必要でした。また、スエズ運河を使えば日数の短縮ができましたが通行料が高くて割りに合わない。それがパナマ運河の開通によって25日の日数に短縮されるのです。
これによってLNG線の年間の往復回数を増やすことが出来るようになります。また燃料費、用船費などのコストも削減できるようになります。しかし今のところパナマ運河の料金がどの程度に設定されるのかによって、上記の考え方が異なってきます。パナマ運河は過去において料金の設定が不安定で値上げを行うことが多々あったからです。
しかし、これは墓穴をほった形になっています。不確実性が高いところに対しては企業は常にヘッジを考えるからです。そして近年の温暖化の影響により欧州とアジアを結ぶルートに北極海の活用が可能になったのです。時期は7月から11月と限定されますが、船舶の航行できるようになったのです。これまでの欧州と日本の輸送距離を考えると、スエズ運河経由と比較しても6割りも短縮できるのです。これによってノルウェーから東京電力にLNGを運ぶ実績ができています。また、ロシアの北極海沿岸でもLNG生産と輸出計画があります。
日本にとってはLNGの調達先が増えるのでプラスですが、パナマ運河にとっては誤算でしょう。また、近年の原油価格の暴落によって、その価格と連動して値段を決めているアジアやオーストラリア産のLNG価格も下がっています。これは米国産のLNGの価格差が詰まることを意味して、計画当初ドル箱だと期待した北米東海岸とアジア・日本におけるシェールガスの運行の需要の減少に繋がるかもしれません。これまパナマ運河にとっては痛いところです。
中国がかつてレアアースの価格を一方的に跳ね上げ、世界から暴利を貪ろうとした時、日本をはじめとする国々はレアアースの代替を急ピッチで開発するインセンティブを余儀なくされました。結果、それらの代替ができ、今ではレアアースが昔ほど必要とされなくなりました。中国はレアアースの値段を下げますが、全体のパイが小さくなったので価格が安くても買い手が昔ほどつかなくなったのです。
さて、パナマ運河。昔の教訓と今の状況を見てどのようなプライシングをするのでしょうね。LNGに対しては11月のスピーチでは往復割引を設定するとありますが、まだまだその部分はグレーです。